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僕の帽子のお話(6/15)

(523字。目安の読了時間:2分)

まあよかったと安心しながら、それを拾おうとすると、帽子は上手に僕の手からぬけ出して、ころころと二、三間先に転がって行くではありませんか。
僕は大急ぎで立ち上がってまたあとを追いかけました。
そんな風にして、帽子は僕につかまりそうになると、二間転がり、三間転がりして、どこまでも僕から逃げのびました。
 四つ角の学校の、道具を売っているおばさんの所まで来ると帽子のやつ、そこに立ち止まって、独楽のように三、四遍横まわりをしたかと思うと、調子をつけるつもりかちょっと飛び上がって、地面に落ちるや否や学校の方を向いて驚くほど早く走りはじめました。
見る見る歯医者の家の前を通り過ぎて、始終僕たちをからかう小僧のいる酒屋の天水桶に飛び乗って、そこでまたきりきり舞いをして桶のむこうに落ちたと思うと、今度は斜むこうの三軒長屋の格子窓の中ほどの所を、風に吹きつけられたようにかすめて通って、それからまた往来の上を人通りがないのでいい気になって走ります。
僕も帽子の走るとおりを、右に行ったり左に行ったりしながら追いかけました。
夜のことだからそこいらは気味の悪いほど暗いのだけれども、帽子だけははっきりとしていて、徽章までちゃんと見えていました。

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僕の帽子のお話(5/15)

(486字。目安の読了時間:1分)

僕はせかせかした気持ちになって、あっちこちを見廻わしました。
 そうしたら中の口の格子戸に黒いものが挟まっているのを見つけ出しました。
電燈の光でよく見ると、驚いたことにはそれが僕の帽子らしいのです。
僕は夢中になって、そこにあった草履をひっかけて飛び出しました。
そして格子戸を開けて、ひしゃげた帽子を拾おうとしたら、不思議にも格子戸がひとりでに音もなく開いて、帽子がひょいと往来の方へ転がり出ました。
格子戸のむこうには雨戸が締まっているはずなのに、今夜に限ってそれも開いていました。
けれども僕はそんなことを考えてはいられませんでした。
帽子がどこかに見えなくならない中にと思って、慌てて僕も格子戸のあきまから駈(か)け出しました。
見ると帽子は投げられた円盤のように二、三間先きをくるくるとまわって行きます。
風も吹いていないのに不思議なことでした。
僕は何しろ一生懸命に駈け出して帽子に追いつきました。
まあよかったと安心しながら、それを拾おうとすると、帽子は上手に僕の手からぬけ出して、ころころと二、三間先に転がって行くではありませんか。

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僕の帽子のお話(4/15)

(456字。目安の読了時間:1分)

なんのこったと思うと、僕はひとりでに面白くなって、襖(ふすま)をがらっと勢よく開けましたが、その音におとうさんやおかあさんが眼をおさましになると大変だと思って、後ろをふり返って見ました。
物音にすぐ眼のさめるおかあさんも、その時にはよく寝ていらっしゃいました。
僕はそうっと襖をしめて、中の口の方に行きました。
いつでもそこの電燈は消してあるはずなのに、その晩ばかりは昼のように明るくなっていました。
なんでもよく見えました。
中の口の帽子かけには、おとうさんの帽子の隣りに、僕の帽子が威張りくさってかかっているに違いないとは思いましたが、なんだかやはり心配で、僕はそこに行くまで、なるべくそっちの方を向きませんでした。
そしてしっかりその前に来てから、「ばあ」をするように、急に上を向いて見ました。
おとうさんの茶色の帽子だけが知らん顔をしてかかっていました。
あるに違いないと思っていた僕の帽子はやはりそこにもありませんでした。
僕はせかせかした気持ちになって、あっちこちを見廻わしました。

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僕の帽子のお話(3/15)

(563字。目安の読了時間:2分)

もしや手に持ったままで帽子のありかを探しているのではないかと思って、両手を眼の前につき出して、手の平と手の甲と、指の間とをよく調べても見ました。
ありません。
僕は胸がどきどきして来ました。
 昨日買っていただいた読本の字引きが一番大切で、その次ぎに大切なのは帽子なんだから、僕は悲しくなり出しました。
涙が眼に一杯たまって来ました。
僕は「泣いたって駄目だよ」と涙を叱(しか)りつけながら、そっと寝床を抜け出して本棚の所に行って上から下までよく見ましたけれども、帽子らしいものは見えません。
僕は本当に困ってしまいました。
「帽子を持って寝たのは一昨日の晩で、昨夜はひょっとするとそうするのを忘れたのかも知れない」とふとその時思いました。
そう思うと、持って寝たようでもあり、持つのを忘れて寝たようでもあります。
「きっと忘れたんだ。そんなら中の口におき忘れてあるんだ。そうだ」僕は飛び上がるほど嬉(うれ)しくなりました。
中の口の帽子かけに庇(ひさし)のぴかぴか光った帽子が、知らん顔をしてぶら下がっているんだ。
なんのこったと思うと、僕はひとりでに面白くなって、襖(ふすま)をがらっと勢よく開けましたが、その音におとうさんやおかあさんが眼をおさましになると大変だと思って、後ろをふり返って見ました。

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僕の帽子のお話(2/15)

(481字。目安の読了時間:1分)

 眼をさましたら本の包はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。
僕は驚いて、半分寝床から起き上って、あっちこっちを見廻わしました。
おとうさんもおかあさんも、何にも知らないように、僕のそばでよく寝ていらっしゃいます。
僕はおかあさんを起そうかとちょっと思いましたが、おかあさんが「お前さんお寝ぼけね、ここにちゃあんとあるじゃありませんか」といいながら、わけなく見付けだしでもなさると、少し耻(はずか)しいと思って、起すのをやめて、かいまきの袖をまくり上げたり、枕の近所を探して見たりしたけれども、やっぱりありません。
よく探して見たら直ぐ出て来るだろうと初めの中は思って、それほど心配はしなかったけれども、いくらそこいらを探しても、どうしても出て来ようとはしないので、だんだん心配になって来て、しまいには喉が干からびるほど心配になってしまいました。
寝床の裾の方もまくって見ました。
もしや手に持ったままで帽子のありかを探しているのではないかと思って、両手を眼の前につき出して、手の平と手の甲と、指の間とをよく調べても見ました。

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僕の帽子のお話(1/15)

(473字。目安の読了時間:1分)

「僕の帽子はおとうさんが東京から買って来て下さったのです。ねだんは二円八十銭で、かっこうもいいし、らしゃも上等です。おとうさんが大切にしなければいけないと仰有いました。僕もその帽子が好きだから大切にしています。夜は寝る時にも手に持って寝ます」
 綴(つづ)り方の時にこういう作文を出したら、先生が皆んなにそれを読んで聞かせて、「寝る時にも手に持って寝ます。寝る時にも手に持って寝ます」と二度そのところを繰返してわはははとお笑いになりました。
皆んなも、先生が大きな口を開いてお笑いになるのを見ると、一緒になって笑いました。
僕もおかしくなって笑いました。
そうしたら皆んながなおのこと笑いました。
 その大切な帽子がなくなってしまったのですから僕は本当に困りました。
いつもの通り「御機嫌よう」をして、本の包みを枕もとにおいて、帽子のぴかぴか光る庇(ひさし)をつまんで寝たことだけはちゃんと覚えているのですが、それがどこへか見えなくなったのです。
 眼をさましたら本の包はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。

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【お知らせ】
7月後半は、同じく有島武郎の『僕の帽子のお話』をお送りします!

残念ながらブンゴウメール無料配信はこの作品で一旦終了となります。
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ご希望される場合は必ず今月中にお申し込み頂くようお願いいたします

それでは、月末までどうぞお楽しみください!

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一房の葡萄(15/15)

(448字。目安の読了時間:1分)

先生はにこにこしながら僕に、
「昨日の葡萄(ぶどう)はおいしかったの。」と問われました。
僕は顔を真赤にして「ええ」と白状するより仕方がありませんでした。
「そんなら又あげましょうね。」
 そういって、先生は真白なリンネルの着物につつまれた体を窓からのび出させて、葡萄の一房をもぎ取って、真白い左の手の上に粉のふいた紫色の房を乗せて、細長い銀色の鋏(はさみ)で真中からぷつりと二つに切って、ジムと僕とに下さいました。
真白い手の平に紫色の葡萄の粒が重って乗っていたその美しさを僕は今でもはっきりと思い出すことが出来ます。
 僕はその時から前より少しいい子になり、少しはにかみ屋でなくなったようです。
 それにしても僕の大好きなあのいい先生はどこに行かれたでしょう。
もう二度とは遇えないと知りながら、僕は今でもあの先生がいたらなあと思います。
秋になるといつでも葡萄の房は紫色に色づいて美しく粉をふきますけれども、それを受けた大理石のような白い美しい手はどこにも見つかりません。

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【お知らせ】
一房の葡萄』は本日で終了です。
明日から月末までは有島武郎の別の短編を配信しますのでお楽しみに!

また大変申し訳ありませんが、現在の無料配信は今月末で終了予定となっております。
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それでは、明日からの配信もどうぞお楽しみください!

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