三十年後の東京(30/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(500字。目安の読了時間:1分)
風洞の中を、気密列車が砲弾のように遠く走っていく、というよりも飛んでいくのですな。十八時間でサンフランシスコへつくんですよ」
「そんなものができたんですか。航空路でもいけるんでしょう」
「空中旅行は、外敵の攻撃を受ける危険がありますからね。この地下鉄の方が安全なんです。なにしろ巨大なる原子力が使えるようになったから、昔の人にはとても考えられないほどの大土木工事や大建築が、どんどん楽にやれるのです。ですから、世界中どこへでも、高速地下鉄で行けるのです」
「ふーン。すると今は地下生活時代ですね」
「まあ、そうでしょうな。しかし空へも発展していますよ。そうそう、明日は、羽田空港から月世界探検隊が十台のロケット艇に乗って出発することになっています」
正吉は大きなため息をついてひとりごとをいった。
「三十年たって、こんなに世界や生活がかわるとは思わなかったなあ。こんなにかわると知ったら、三十年前にもっと元気を出して、勉強したものをねえ」
あとで分った話によると、例のモーリ博士は月世界探検に行ったまま、遭難して帰れなくなっているということだ。
こんどの探検隊が、きっと博士を救い出すであろう。
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三十年後の東京(29/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(483字。目安の読了時間:1分)
海底へ都市をのばして行くのです。また海底を掘って、その下にある重要資源を掘りだしています。大昔も、炭鉱で海底に出ているのもありましたね。ああいうものがもっと大仕掛になったのです。人も住んでいます。街もあります。海底トンネルというのが昔、ありましたね。あれが大きくなっていったと考えてもいいでしょう」
正吉は海底都市から出かけて、ふたたび上へあがっていった。
とちゅうに停車場があって、たくさんの小学生が旅行にでかける姿をして、わいわいさわいでいた。
「あ、小学生の遠足ですね。君たち、どこへ行くの」
「カリフォルニアからニューヨークの方へ」
「えっ、カリフォルニアからニューヨークの方へ。僕をからかっちゃいけないねえ」
「からかいやしないよ。ほんとだよ。君はへんな少年だね」
正吉は、やっつけられた。
そばにいた区長がにやにや笑いながら、正吉の耳にささやいた。
「ちかごろの小学生はアメリカやヨーロッパへ遠足にいくのです。この駅からは、太平洋横断地下鉄の特別急行列車が出ます。風洞の中を、気密列車が砲弾のように遠く走っていく、というよりも飛んでいくのですな。
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三十年後の東京(28/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(479字。目安の読了時間:1分)
「やあ、やっぱり水族館ですね」
うすあかるい青い光線のただよっている海水の中を、魚の群が元気よく泳ぎまわっている。
こんぶやわかめなどの海草の林が見え、岩の上にはなまこがはっている。
いそぎんちゃくも、手をひろげている。
「水族館だと思いますか」
区長さんが笑いかけた。
「よく見て下さい。今、燈火をつけて、遠くまで見えるようにしましょう」
そういって区長は、窓の下にあるスイッチのようなものをうごかした。
すると昼間のようにあかるい光線が、さっと水の中を照らした。
その光は遠くにまでとどいた。
魚群がおどろいたか、たちまちこの光のまわりは幾組も幾組も、その数は何万何十万ともしれないおびただしさで、集まって来た。
「これでも水族館に見えますか」
と、区長がたずね、
「いや、ちがいました。これは本物の海の中をのぞいているのですね」
遠くまで見えた。
こんな大きな水族館の水槽はないであろう。
「お分りでしたね。つまりこのように、わが国は今さかんに海底都市を建設しているのです」
「海底都市ですって」
「そうです。海底へ都市をのばして行くのです。
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三十年後の東京(27/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(617字。目安の読了時間:2分)
昔は太陽の光と能率のわるい肥料で永くかかって栽培していましたが、今はそれに代って、適当なる化学線と電気とすぐれた植物ホルモンをあたえることによって、たいへんりっぱな、そして栄養になるものを短い期間に収穫できるようになりました。こんなきゅうりなら、花が咲いてから一日乃至二日で、もぎとってもいいほどの大きさになります。りんごでもかきでも、一週間でりっぱな実となります」
「おどろきましたね」
「そんなわけですから、昔とちがい、一年中いつでもきゅうりやかぼちゃがなります。またりんごもバナナもかきも、一年中いつでもならせることができます」
「すると、遅配だの飢餓だのということは、もう起らないのですね」
「えっ、なんとかおっしゃいましたか」
技師は正吉の質問が分らなくて問いかえした。
正吉は、気がついてその質問をひっこめた。
まちがいなく五十倍の増産がらくに出来る今の世の中に、遅配だの飢餓だのということが分らないのはあたり前だ。
海底都市
動く道路を降りて丘になっている一段高い公園みたいなところへあがった。
もちろん地中のことだから頭上には天井がある。
壁もある。
その広い壁のところどころに、大きな水族館の水槽ののぞき窓みたいに、横に長い硝子板のはまった窓があるのだった。
その窓から外をのぞいた。
「やあ、やっぱり水族館ですね」
うすあかるい青い光線のただよっている海水の中を、魚の群が元気よく泳ぎまわっている。
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三十年後の東京(26/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(487字。目安の読了時間:1分)
地中では、太陽の光と熱とをもたらすことができないから、農作物が育つわけがない。
「ここです。はいりましょう」
大きなビルの中に案内された。
こんな会社のような建物の中に、いったいどんな農場があるのであろうか。
が、案内されて三十年後の地下農場を見せられたとき、正吉はあっとおどろいた。
かぼちゃも、きゅうりも、いねも昔の三等寝台のように、何段も重なった棚の上にうえられていた。
みんなよく育っていた。
「このきゅうりを見てごらんなさい[#「ごらんなさい」は底本では「ごらんさい」]」
そこの技師からいわれて、正吉はそのきゅうりをみていた。
「おや、このきゅうりは動きますね。おやおや、どんどん大きくなる」
正吉はびっくりしたり、きみがわるくなったり、これは、おばけきゅうりだ。
「この頃の農作物は、みんなこのようなやり方で栽培しています。昔は太陽の光と能率のわるい肥料で永くかかって栽培していましたが、今はそれに代って、適当なる化学線と電気とすぐれた植物ホルモンをあたえることによって、たいへんりっぱな、そして栄養になるものを短い期間に収穫できるようになりました。
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三十年後の東京(25/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(527字。目安の読了時間:2分)
中でも一番苦しかったのは、食糧だった。
「ああ、そうそう」と正吉はいった。
「ねえ区長さん。田畑や果樹園はどうなっているのですか。地上を攻撃されるおそれがあるんなら、地上でおちおち畑をつくってもいられないでしょう」
「そうですとも。もう地上では稲を植えるわけにはいかないし、お芋やきゅうりやなすをつくることもできないです。そんなものをつくっていても、いつ空から恐ろしいばい菌や毒物をまかれるかもしれんですからね。そうなると安心してたべられない」
「じゃあ農作物は、ぜんぜん作っていないのですか」
「そんなことはありません。さっきあなたがおあがりになった食事にも、ちゃんとかぼちゃが出たし、かぶも出ました。ごはんも出たし、ももも出たし、かきも出た」
「そうでしたね」
「では、まずそこへ案内しますかな。ちょうどよかった。すぐそこのアスカ農場でも作っていますから、ちょっとのぞいていきましょう」
アスカ農場だという。
地上には田畑も果樹園もないと区長さんはいっている。
それにもかかわらず農場と名のつくところがあるのはおかしい。
まさか、地中にその農場があるわけでもあるまい。
地中では、太陽の光と熱とをもたらすことができないから、農作物が育つわけがない。
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三十年後の東京(24/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(500字。目安の読了時間:1分)
びっくり農場
思いがけない母親とのめぐりあいに、正吉少年はたいへん元気づいた。
見しらぬ世界のまっただ中へとびこんだひとりぼっちの心細さ――というようなものが、とたんに消えてしまった。
「これからどこへつれていって下さるのですか」
と、正吉はカニザワ区長やサクラ院長などをふりかえって、たずねた。
「君がびっくりするところへ案内します。ちょっぴり、教えましょうか。日本の新しい領土なんです。ハハハ、おどろいたでしょう」
「日本の新しい領土ですって。それはへんですね。日本は戦争にも負けたし、また今後は戦争をしないことになったわけだから、領土がふえるはずがないですがね」
「そう思うでしょう。しかしそうじゃないんです。君がじっさいそこへ行ってみれば分りますよ」
「近くなんですか」
「いや、近くではないです。かなり遠いです。しかし高速の乗物で行くからわけはありません」
正吉は区長さんのいうことが理解できなかった。
土地がせまくなったところへ、海外から大ぜいの同胞がもどって来たので、たいへん暮しにくくなり、来る年も来る年も苦しんだことを思い出した。
中でも一番苦しかったのは、食糧だった。
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