ブンゴウメール公式ブログ

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秘密(9/30)

(638字。目安の読了時間:2分)女物に限らず、凡べて美しい絹物を見たり、触れたりする時は、何となく顫い附きたくなって、丁度恋人の肌の色を眺めるような快感の高潮に達することが屡々であった。殊に私の大好きなお召や縮緬を、世間憚(はばか)らず、恣…

秘密(8/30)

(602字。目安の読了時間:2分)畳の上に投げ出された無数の書物からは、惨殺、麻酔、魔薬、妖女、宗教―――種々雑多の傀儡(かいらい)が、香の煙に溶け込んで、朦朧(もうろう)と立ち罩(こ)める中に、二畳ばかりの緋毛氈を敷き、どんよりとした蛮人のよう…

秘密(7/30)

(579字。目安の読了時間:2分)その中には、コナンドイルの The Sign of Four や、ドキンシイの Murder, Considered as one of the fine arts や、アラビアンナイトのようなお伽噺(とぎばなし)から、仏蘭西の不思議な Sexuology の本なども交っていた。此…

秘密(6/30)

(669字。目安の読了時間:2分)私は秘密と云う物の面白さを、子供の時分からしみじみと味わって居た。かくれんぼ、宝さがし、お茶坊主のような遊戯―――殊に、それが闇の晩、うす暗い物置小屋や、観音開きの前などで行われる時の面白味は、主としてその間に「…

秘密(5/30)

(551字。目安の読了時間:2分)微細な感受性の働きを要求する一流の芸術だとか、一流の料理だとかを翫味するのが、不可能になっていた。下町の粋と云われる茶屋の板前に感心して見たり、仁左衛門や鴈治郎の技巧を賞美したり、凡べて在り来たりの都会の歓楽…

秘密(4/30)

(557字。目安の読了時間:2分)浅草橋と和泉橋は幾度も渡って置きながら、その間にある左衛門橋を渡ったことがない。二長町の市村座へ行くのには、いつも電車通りからそばやの角を右へ曲ったが、あの芝居の前を真っ直ぐに柳盛座の方へ出る二三町ばかりの地…

秘密(3/30)

(571字。目安の読了時間:2分)私はその時まで、たびたび八幡様へお参りをしたが、未だ嘗(かつ)て境内の裏手がどんなになっているか考えて見たことはなかった。いつも正面の鳥居の方から社殿を拝むだけで、恐らくパノラマの絵のように、表ばかりで裏のな…