ブンゴウメール公式ブログ

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父帰る(11/15)

(583字。目安の読了時間:2分)あの時おたあさんが誤って水の浅い所へ飛び込んだればこそ、助かっているんや。俺たちに父親があれば、十の年から給仕をせいでも済んどる。俺たちは父親がないために、子供の時になんの楽しみもなしに暮してきたんや。新二郎…

父帰る(10/15)

(609字。目安の読了時間:2分)わしも、四、五年前までは、人の二、三十人も連れて、ずうと巡業して回っとったんやけどもな。呉で見世物小屋が丸焼になったために、えらい損害を受けてな。それからは何をしても思わしくないわ。その内に老先が短くなってく…

父帰る(9/15)

(556字。目安の読了時間:2分)男の声 上ってもええかい。母の声 ええとも。(二十年振りに帰れる父宗太郎、憔悴したる有様にて老いたる妻に導かれて室に入り来る、新二郎とおたねとは目をしばたたきながら、父の姿をしみじみ見つめていたが)新二郎 お父さ…

父帰る(8/15)

(521字。目安の読了時間:2分)新二郎 どんな人だ。おたね 暗くて、分からなんだけど、背の高い人や。新二郎 (立って次の間へ行き、窓から覗く)……。賢一郎 誰かいるかい。新二郎 いいや、誰もおらん。(兄弟三人沈黙している)母 あの人が家を出たのは盆…

父帰る(7/15)

(584字。目安の読了時間:2分)(三人食事にかかる)母 たねも、もう帰ってくるやろう。もうめっきり寒うなったな。新二郎 おたあさん、今日浄願寺の椋(むく)の木で百舌が鳴いとりましたよ。もう秋じゃ。……兄さん、僕はやっぱり、英語の検定をとることに…

父帰る(6/15)

(533字。目安の読了時間:2分)賢一郎 (やや真面目に)杉田さんがその男に会うたのは何日のことや。新二郎 昨日の晩の九時頃じゃということです。賢一郎 どんな身なりをしておったんや。新二郎 あんまり、ええなりじゃないそうです。羽織も着ておらなんだ…

父帰る(5/15)

(595字。目安の読了時間:2分)同じ町へ帰ったら自分の生れた家に帰らんことはないけにのう。賢一郎 しかし、お父さんは家の敷居はちょっと越せないやろう。母 私はもう死んだと思うとんや、家出してから二十年になるんやけえ。新二郎 いつか、岡山で会った…