ブンゴウメール公式ブログ

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2018-01-01から1年間の記事一覧

【ブンゴウメール】大つごもり (31/31)

(338字。目安の読了時間:1分) 伯父様同腹で無きだけを何処までも陳べて、聞かれずば甲斐なしその場で舌かみ切つて死んだなら、命にかへて嘘(うそ)とは思しめすまじ、それほど度胸すわれど奥の間へ行く心は屠処の羊なり。 …………………………………………………… お峯が引…

【ブンゴウメール】大つごもり (30/31)

(353字。目安の読了時間:1分) 我が罪は覚悟の上なれど物がたき伯父様にまで濡(ぬ)れ衣を着せて、干されぬは貧乏のならひ、かかる事もする物と人の言ひはせぬか、悲しや何としたらよかろ、伯父様に疵(きず)のつかぬやう、我身が頓死する法は無きかと目…

【ブンゴウメール】大つごもり (29/31)

(344字。目安の読了時間:1分) 持つまじきは放蕩を仕立る継母ぞかし。 塩花こそふらね跡は一まづ掃き出して、若旦那退散のよろこび、金は惜しけれど見る目も憎ければ家に居らぬは上々なり、どうすればあのやうに図太くなられるか、あの子を生んだ母さんの…

【ブンゴウメール】大つごもり (28/31)

(351字。目安の読了時間:1分) 親兄弟に恥を見するな、貴様にいふとも甲斐は無けれど尋常ならば山村の若旦那とて、入らぬ世間に悪評もうけず、我が代りの年礼に少しの労をも助くる筈を、六十に近き親に泣きを見するは罰あたりで無きか、子供の時には本の少…

【ブンゴウメール】大つごもり (27/31)

(335字。目安の読了時間:1分) 我れは詮方なけれどお名前に申わけなしなどと、つまりは此金の欲しと聞えぬ。 母は大方かかる事と今朝よりの懸念うたがひなく、幾金とねだるか、ぬるき旦那どのの処置はがゆしと思へど、我れも口にては勝がたき石之助の弁に…

【ブンゴウメール】大つごもり (26/31)

(346字。目安の読了時間:1分) 意見も実は聞あきたり、親類の顔に美くしきも無ければ見たしと思ふ念もなく、裏屋の友達がもとに今宵約束も御座れば、一先お暇として何れ春永に頂戴の数々は願ひまする、折からお目出度矢先、お歳暮には何ほど下さりますかと…

【ブンゴウメール号外】クリスマス特別号

いつもブンゴウメールをご利用ありがとうございます。 今日はクリスマスということで、久々の号外メールです。 クリスマスにちなんだ短編をお送りします。 今月の樋口一葉は特に読みにくい文体なので毎日大変ですよね。。 というわけでお口直しに読みやすい…

【ブンゴウメール】大つごもり (25/31)

(349字。目安の読了時間:1分) 見し人なしと思へるは愚かや。 …………………………………………………… その日も暮れ近く旦那つりより恵比須がほして帰らるれば、御新造も続いて、安産の喜びに送りの車夫にまで愛想よく、今宵を仕舞へば又見舞ひまする、明日は早くに妹共の誰…

【ブンゴウメール】大つごもり (24/31)

(338字。目安の読了時間:1分) 旦那や御新造に宜くお礼を申て来いと父さんが言ひましたと、子細を知らねば喜び顔つらや、まづまづ待つて下され、少し用もあればと馳(は)せ行きて内外を見廻せば、嬢さまがたは庭に出て追羽子に余念なく、小僧どのはまだお…

【ブンゴウメール】大つごもり (23/31)

(361字。目安の読了時間:1分) これは大晦日とて遠慮のならぬ物なり、家のうちには金もあり、放蕩どのが寐(ね)てはいる、心は二つ、分けられぬ身なれば恩愛の重きに引かれて、車には乗りけれど、かかる時気楽の良人が心根にくく、今日あたり沖釣りでも無…

【ブンゴウメール】大つごもり (22/31)

(360字。目安の読了時間:1分) しかも口づから承知して置きながら十日とたたぬに耄(もう)ろくはなさるまじ、あれあの懸け硯(すずり)の引出しにも、これは手つかずの分と一ト束、十か二十か悉皆とは言はず唯二枚にて伯父が喜び伯母が笑顔、三之助に雑煮…

【ブンゴウメール】大つごもり (21/31)

(345字。目安の読了時間:1分) それはお前が何ぞの聞違へ、私は毛頭も覚えの無き事と、これがこの人の十八番とはてもさても情なし。 花紅葉うるはしく仕立し娘たちが春着の小袖、襟をそろへて褄(つま)を重ねて、眺めつ眺めさせて喜ばんものを、邪魔もの…

【ブンゴウメール】大つごもり (20/31)

(336字。目安の読了時間:1分) このほどより願ひましたる事、折からお忙がしき時心なきやうなれど、今日の昼る過ぎにと先方へ約束のきびしき金とやら、お助けの願はれますれば伯父の仕合せ私の喜び、いついつまでも御恩に着まするとて手をすりて頼みける、…

【ブンゴウメール】大つごもり (19/31)

(347字。目安の読了時間:1分) やがて巻きあげて貴様たちに好き正月をさせるぞと、伊皿子あたりの貧乏人を喜ばして、大晦日を当てに大呑みの場処もさだめぬ。 それ兄様のお帰りと言へば、妹ども怕(こわ)がりて腫れ物のやうに障るものなく、何事も言ふな…

【ブンゴウメール】大つごもり (18/31)

(356字。目安の読了時間:1分) さりとて此放蕩子を養子にと申受る人この世にはあるまじ、とかくは有金の何ほどを分けて、若隠居の別戸籍にと内々の相談は極まりたれど、本人うわの空に聞流して手に乗らず、分配金は一万、隠居扶持月々おこして、遊興に関を…

【ブンゴウメール】大つごもり (17/31)

(335字。目安の読了時間:1分) 母の違ふに父親の愛も薄く、これを養子に出して家督は妹娘の中にとの相談、十年の昔しより耳に挟みて面白からず、今の世に勘当のならぬこそをかしけれ、思ひのままに遊びて母が泣きをと父親の事は忘れて、十五の春より不了簡…

【ブンゴウメール】大つごもり (16/31)

(350字。目安の読了時間:1分) よろしう御座んす慥(たし)かに受合ひました、むづかしくはお給金の前借にしてなり願ひましよ、見る目と家内とは違ひて何処にも金銭の埒(らち)は明きにくけれど、多くでは無しそれだけで此処の始末がつくなれば、理由を聞…

【ブンゴウメール】大つごもり (15/31)

(348字。目安の読了時間:1分) この中にて何となるべきぞ、額を合せて談合の妻は人仕事に指先より血を出して日に拾銭の稼ぎも成らず、三之助に聞かするとも甲斐なし、お峯が主は白金の台町に貸長屋の百軒も持ちて、あがり物ばかりに常綺羅美々しく、我れ一…

【ブンゴウメール】大つごもり (14/31)

(340字。目安の読了時間:1分) と言ふて帰られる物では無し、初奉公が肝腎、辛棒がならで戻つたと思はれても成らねば、お主大事に勤めてくれ、我が病気も長くは有るまじ、少しよくば気の張弓、引つづいて商ひもなる道理、ああ今半月の今歳が過れば新年は好…

【ブンゴウメール】大つごもり (13/31)

(337字。目安の読了時間:1分) さてもさても世間に無類の孝行、大がらとても八歳は八歳、天秤肩にして痛みはせぬか、足に草鞋くひは出来ぬかや、堪忍して下され、今日よりは私も家に帰りて伯父様の介抱活計の助けもしまする、知らぬ事とて今朝までも釣瓶の…

【ブンゴウメール】大つごもり (12/31)

(344字。目安の読了時間:1分) お峯聞いてくれ、歳は八つなれど身躰も大きし力もある、我が寐(ね)てからは稼ぎ人なしの費用は重なる、四苦八苦見かねたやら、表の塩物やが野郎と一処に、蜆(しじみ)を買ひ出しては足の及ぶだけ担ぎ廻り、野郎が八銭うれ…

【ブンゴウメール】大つごもり (11/31)

(331字。目安の読了時間:1分) 下なる奴に物いひつけんと振向く途端、暦に黒ぼしの仏滅とでも言ふ日で有しか、年来馴(な)れたる足場をあやまりて、落たるも落たるも下は敷石に模様がへの処ありて、掘おこして積みたてたる切角に頭脳したたか打ちつけたれ…

【ブンゴウメール】大つごもり (10/31)

(351字。目安の読了時間:1分) 伯父様に何ぞと存じたれど、道は遠し心は急く、車夫の足が何時より遅いやうに思はれて、御好物の飴屋が軒も見はぐりました、此金は少々なれど私が小遣の残り、麹町の御親類よりお客の有し時、その御隠居さま寸白のお起りなさ…

【ブンゴウメール】大つごもり (9/31)

(331字。目安の読了時間:1分) 箪笥(たんす)長持はもとより有るべき家ならねど、見し長火鉢のかげも無く、今戸焼の四角なるを同じ形の箱に入れて、これがそもそもこの家の道具らしき物、聞けば米櫃も無きよし、さりとは悲しき成ゆき、師走の空に芝居みる…

【ブンゴウメール】大つごもり (8/31)

(362字。目安の読了時間:1分) 凧(たこ)紙風船などを軒につるして、子供を集めたる駄菓子やの門に、もし三之助の交じりてかと覗(のぞ)けど、影も見えぬに落胆して思はず徃来を見れば、我が居るよりは向ひのがはを痩ぎすの子供が薬瓶もちて行く後姿、三…

【ブンゴウメール】大つごもり (7/31)

(344字。目安の読了時間:1分) 苞(つと)に松茸の初物などは持たで、八百安が物は何時も帳面につけた様なと笑はるれど、愛顧は有がたきもの、曲りなりにも親子三人の口をぬらして、三之助とて八歳になるを五厘学校に通はするほどの義務もしけれど、世の秋…

【ブンゴウメール】大つごもり (6/31)

(335字。目安の読了時間:1分) 父母なき後は唯一人の大切な人が、病ひの床に見舞ふ事もせで、物見遊山に歩くべき身ならず、御機嫌に違ひたらばそれまでとして遊びの代りのお暇を願ひしにさすがは日頃の勤めぶりもあり、一日すぎての次の日、早く行きて早く…

【ブンゴウメール】大つごもり (5/31)

(355字。目安の読了時間:1分) 同じ町ながら裏屋住居に成しよしは聞けど、むづかしき主を持つ身の給金を先きに貰(もら)へばこの身は売りたるも同じ事、見舞にと言ふ事も成らねば心ならねど、お使ひ先の一寸の間とても時計を目当にして幾足幾町とそのしら…

【ブンゴウメール】大つごもり (4/31)

(344字。目安の読了時間:1分) 主の物とて粗末に思ふたら罸(ばち)が当るぞえと明け暮れの談義、来る人毎に告げられて若き心には恥かしく、その後は物ごとに念を入れて、遂ひに麁想をせぬやうに成りぬ、世間に下女つかふ人も多けれど、山村ほど下女の替る…

【ブンゴウメール】大つごもり (3/31)

(354字。目安の読了時間:1分) 二つの手桶に溢(あふ)るるほど汲(く)みて、十三は入れねば成らず、大汗に成りて運びけるうち、輪宝のすがりし曲み歯の水ばき下駄、前鼻緒のゆるゆるに成りて、指を浮かさねば他愛の無きやう成し、その下駄にて重き物を持…