ブンゴウメール公式ブログ

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2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

【ブンゴウメール】河童 (31/31)

(1338字。目安の読了時間:3分) 「どうしてそんなことを知っている?」 「ラディオのニウスで知ったのです。」 バッグは得意そうに笑っているのです。 「それにしてもよく来られたね?」 「なに、造作はありません。東京の川や掘割りは河童には往来も同様…

【ブンゴウメール】河童 (30/31)

(1362字。目安の読了時間:3分) 年をとった河童はこう言いながら、さっきの綱を指さしました。 今まで僕の綱と思っていたのは実は綱梯子にできていたのです。 「ではあすこから出さしてもらいます。」 「ただわたしは前もって言うがね。出ていって後悔しな…

【ブンゴウメール】河童 (29/31)

(1373字。目安の読了時間:3分) しかしそこへ行ってみると、いかにも小さい家の中に年をとった河童どころか、頭の皿も固まらない、やっと十二三の河童が一匹、悠々と笛を吹いていました。 僕はもちろん間違った家へはいったではないかと思いました。 が、…

【ブンゴウメール】河童 (28/31)

(1404字。目安の読了時間:3分) 答 予の交友は古今東西にわたり、三百人を下らざるべし。 その著名なるものをあぐれば、クライスト、マインレンデル、ワイニンゲル…… 問 君の交友は自殺者のみなりや? 答 必ずしもしかりとせず。 自殺を弁護せるモンテェニ…

【ブンゴウメール】河童 (27/31)

(1397字。目安の読了時間:3分) (心霊学協会雑誌第八千二百七十四号所載) わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現在は××写真師のステュディオなる□□街第二百五十一号に臨時調査会を開催せり。 列席せる会員は下のごとし。 (氏名を略…

【ブンゴウメール】河童 (26/31)

(1413字。目安の読了時間:3分) 「トックはあなたをうらやんでいたでしょう。いや、僕もうらやん でいます。ラップ君などは年も若いし、……」 「僕も嘴(くちばし)さえちゃんとしていればあるいは楽天的だっ たかもしれません。」 長老は僕らにこう言われ…

【ブンゴウメール】河童 (25/31)

(1383字。目安の読了時間:3分) 轢死する人足の心もちをはっきり知っていた詩人です。しかしそれ以上の説明はあなたには不必要に違いありません。では五番目の龕の中をごらんください。――」 「これはワグネルではありませんか?」 「そうです。国王の友だ…

【ブンゴウメール】河童 (24/31)

(1373字。目安の読了時間:3分) 「ついてはどうかこの方の御案内を願いたいと思うのですが。」 長老は大様に微笑しながら、まず僕に挨拶をし、静かに正面の祭壇 を指さしました。 「御案内と申しても、何もお役に立つことはできません。我々信徒 の礼拝す…

【ブンゴウメール】河童 (23/31)

(1376字。目安の読了時間:3分) 「我々河童はなんと言っても、河童の生活をまっとうするためには 、……」 マッグは多少はずかしそうにこう小声でつけ加えました。 「とにかく我々河童以外の何ものかの力を信ずることですね。」 一四 僕に宗教というものを思…

【ブンゴウメール】河童 (22/31)

(1402字。目安の読了時間:3分) クラバックはこういう光景を見ると、しばらく戸口にたたずんでい ました。が、僕らの前へ歩み寄ると、怒鳴りつけるようにマッグに話しかけ ました。 「それはトックの遺言状ですか?」 「いや、最後に書いていた詩です。」 …

【ブンゴウメール】河童 (21/31)

(1423字。目安の読了時間:3分) 「わたしはこの間もある社会主義者に『貴様は盗人だ』と言われた ために心臓痲痺を[#「痲痺を」は底本では「痳痺を」] 起こしかかったものです。」 「それは案外多いようですね。わたしの知っていたある弁護士など はや…

【ブンゴウメール】河童 (20/31)

(1384字。目安の読了時間:3分) 「しかし僕の万年筆を盗んだのは……」 「子どもの玩具にするためだったのでしょう。けれどもその子ども は死んでいるのです。もし何か御不審だったら、 刑法千二百八十五条をお調べなさい。」 巡査はこう言いすてたなり、さ…

【ブンゴウメール】河童 (19/31)

(1405字。目安の読了時間:3分) × 成すことは成し得ることであり、成し得ることは成すことである。畢竟(ひっきょう)我々の生活はこういう循環論法を脱することは できない。――すなわち不合理に終始している。 × ボオドレエルは白痴になった後、彼の人生…

【ブンゴウメール】河童 (18/31)

(1364字。目安の読了時間:3分) のみならず何か疑わしそうに僕らの顔を見比べながら、こんなこと さえ言い出すのです。 「僕は決して無政府主義者ではないよ。それだけはきっと忘れずに いてくれたまえ。――ではさようなら。チャックなどはまっぴらご めん…

【ブンゴウメール】河童 (17/31)

(1372字。目安の読了時間:3分) 「では何を恐れているのだ?」 「何か正体の知れないものを、――言わばロックを支配している星 を。」 「どうも僕には腑(ふ)に落ちないがね。」 「ではこう言えばわかるだろう。ロックは僕の影響を受けない。が 、僕はいつ…

【ブンゴウメール】河童 (16/31)

(1363字。目安の読了時間:3分) 僕の同情したのはもちろんです。同時にまた家族制度に対する詩人のトックの軽蔑を思い出したのも もちろんです。僕はラップの肩をたたき、一生懸命に慰めました。 「そんなことはどこでもありがちだよ。まあ勇気を出したま…

【ブンゴウメール】河童 (15/31)

(1354字。目安の読了時間:3分) 悪はおのずから消滅すべし。』……しかもわたしは利益のほかにも 愛国心に燃え立っていたのですからね。」 ちょうどそこへはいってきたのはこの倶楽部(クラブ)の給仕です 。給仕はゲエルにお時宜をした後、朗読でもするよう…

【ブンゴウメール】河童 (14/31)

(1359字。目安の読了時間:3分) ゲエルはおお声に笑いました。 「それはむしろしあわせでしょう。」 「とにかくわたしは満足しています。しかしこれもあなたの前だけ に、――河童でないあなたの前だけに手放しで吹聴できるのです。 」 「するとつまりクオラ…

【ブンゴウメール】河童 (13/31)

(1361字。目安の読了時間:3分) のみならずまたゲエルの話は哲学者のマッグの話のように深みを持 っていなかったにせよ、僕には全然新しい世界を、――広い世界を のぞかせました。ゲエルは、いつも純金の匙(さじ)に珈琲(カッフェ)の茶碗をか きまわしな…

【ブンゴウメール】河童 (12/31)

(1418字。目安の読了時間:3分) 時価は一噸二三銭ですがね。」 もちろんこういう工業上の奇蹟は書籍製造会社にばかり起こってい るわけではありません。絵画製造会社にも、音楽製造会社にも、同じように起こっているの です。実際またゲエルの話によれば、…

【ブンゴウメール】河童 (11/31)

(1360字。目安の読了時間:3分) なにしろ音楽というものだけはどんなに風俗を壊乱する曲でも、耳 のない河童にはわかりませんからね。」 「しかしあの巡査は耳があるのですか?」 「さあ、それは疑問ですね。たぶん今の旋律を聞いているうちに細 君といっ…

【ブンゴウメール】河童 (10/31)

(1407字。目安の読了時間:3分) するとセロの独奏が終わった後、妙に目の細い河童が一匹、無造作 に譜本を抱えたまま、壇の上へ上がってきました。この河童はプログラムの教えるとおり、名高いクラバックという作 曲家です。プログラムの教えるとおり、――…

【ブンゴウメール】河童 (9/31)

(1419字。目安の読了時間:3分) が、やっと起き上がったのを見ると、失望というか、後悔というか 、とにかくなんとも形容できない、気の毒な顔をしていました。しかしそれはまだいいのです。これも僕の見かけた中に小さい雄の河童が一匹、雌の河童を追いか…

【ブンゴウメール】河童 (8/31)

(1385字。目安の読了時間:3分) もっともこれは六十本目にテエブルの下へ転げ落ちるが早いか、た ちまち往生してしまいましたが。 僕はある月のいい晩、詩人のトックと肘を組んだまま、超人倶楽部 から帰ってきました。トックはいつになく沈みこんでひとこ…

【ブンゴウメール】河童 (7/31)

(1371字。目安の読了時間:3分) 詩人が髪を長くしていることは我々人間と変わりません。僕は時々トックの家へ退屈しのぎに遊びにゆきました。トックはいつも狭い部屋に高山植物の鉢植えを並べ、詩を書いたり 煙草をのんだり、いかにも気楽そうに暮らしてい…

【ブンゴウメール】河童 (6/31)

(1366字。目安の読了時間:3分) が、そこにい合わせた産婆はたちまち細君の生殖器へ太い硝子(ガ ラス)の管を突きこみ、何か液体を注射しました。すると細君はほっとしたように太い息をもらしました。同時にまた今まで大きかった腹は水素瓦斯(すいそガス…

【ブンゴウメール】河童 (5/31)

(1415字。目安の読了時間:3分) のみならずバッグを追いかける時、突然どこへ行ったのか、見えな くなったことを思い出しました。しかも河童は皮膚の下によほど厚い脂肪を持っているとみえ、この 地下の国の温度は比較的低いのにもかかわらず、(平均華氏…

【ブンゴウメール】河童 (4/31)

(1393字。目安の読了時間:3分) 特別保護住民だった僕にだれも皆好奇心を持っていましたから、毎 日血圧を調べてもらいに、わざわざチャックを呼び寄せるゲエルと いう硝子(ガラス)会社の社長などもやはりこの部屋へ顔を出した ものです。しかし最初の半…

【ブンゴウメール】河童 (3/31)

(1449字。目安の読了時間:3分) 二 そのうちにやっと気がついてみると、僕は仰向けに倒れたまま、大 勢の河童にとり囲まれていました。のみならず太い嘴(くちばし)の上に鼻目金をかけた河童が一匹、 僕のそばへひざまずきながら、僕の胸へ聴診器を当てて…

【ブンゴウメール】河童 (2/31)

(1363字。目安の読了時間:3分) コオンド・ビイフの罐(かん)を切ったり、枯れ枝を集めて火をつ けたり、――そんなことをしているうちにかれこれ十分はたったで しょう。その間にどこまでも意地の悪い霧はいつかほのぼのと晴れかかりま した。僕はパンをか…