ブンゴウメール公式ブログ

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2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

おじいさんのランプ(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (429字。目安の読了時間:1分) 思いついたら、深くも考えず、ぱっぱっとやってしまったんだ」 「馬鹿しちゃったね」 と東一君は孫だからえんりょなしにいった。 「うん、馬鹿しちゃった。しかしね、東坊――」 とおじいさんは、きせるを膝の…

おじいさんのランプ(29/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (425字。目安の読了時間:1分) 「そいじゃ、残りの四十七のランプはどうした?」 と東一君はきいた。 「知らん。次の日、旅の人が見つけて持ってったかも知れない」 「そいじゃ、家にはもう一つもランプなしになっちゃった?」 「うん、ひ…

おじいさんのランプ(28/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (419字。目安の読了時間:1分) 「お前たちの時世はすぎた。世の中は進んだ」 と巳之助はいった。 そしてまた一つ石ころを拾った。 二番目に大きかったランプが、パリーンと鳴って消えた。 「世の中は進んだ。電気の時世になった」 三番目の…

おじいさんのランプ(27/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (418字。目安の読了時間:1分) あかりをしたって寄って来た魚が、水の中にきらりきらりとナイフのように光った。 「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」 と巳之助は一人でいった。 しかし立去りかねて、ながいあいだ両手を垂れたままラン…

おじいさんのランプ(26/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (424字。目安の読了時間:1分) それにみな石油をついだ。 そしていつもあきないに出るときと同じように、車にそれらのランプをつるして、外に出た。 こんどはマッチを忘れずに持って。 道が西の峠にさしかかるあたりに、半田池という大きな…

おじいさんのランプ(25/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (431字。目安の読了時間:1分) それだけ世の中がひらけたのである。 文明開化が進んだのである。 巳之助もまた日本のお国の人間なら、日本がこれだけ進んだことを喜んでいいはずなのだ。 古い自分のしょうばいが失われるからとて、世の中の…

おじいさんのランプ(24/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (419字。目安の読了時間:1分) 火花は飛んだが、ほくちがしめっているのか、ちっとも燃えあがらないのであった。 巳之助は火打というものは、あまり便利なものではないと思った。 火が出ないくせにカチカチと大きな音ばかりして、これでは…

おじいさんのランプ(23/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (468字。目安の読了時間:1分) みぞの中を鼬のように身をかがめて走ったり、藪の中を捨犬のようにかきわけたりしていった。 他人に見られたくないとき、人はこうするものだ。 区長さんの家には長い間やっかいになっていたので、よくその様…

おじいさんのランプ(22/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (447字。目安の読了時間:1分) 村会がすんで、いよいよ岩滑新田の村にも電燈をひくことにきまったと聞かされたときにも、巳之助は脳天に一撃をくらったような気がした。 こうたびたび一撃をくらってはたまらない、頭がどうかなってしまう、…

おじいさんのランプ(21/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) 電燈がともるようになれば、村人たちはみんなランプを、あの甘酒屋のしたように壁の隅につるすか、倉の二階にでもしまいこんでしまうだろう。 ランプ屋のしょうばいはいらなくなるだろう。 だが、ランプでさ…

おじいさんのランプ(20/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (446字。目安の読了時間:1分) ちょっと外へくびを出して町通りを見てごらんよ」 巳之助はむっつりと入口の障子をあけて、通りをながめた。 どこの家どこの店にも、甘酒屋のと同じように明かるい電燈がともっていた。 光は家の中にあまつて…

おじいさんのランプ(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (449字。目安の読了時間:1分) 見なよ、あの天井のとこを。ながねんのランプの煤であそこだけ真黒になっとるに。ランプはもうあそこにいついてしまったんだ。今になって電気たらいう便利なもんができたからとて、あそこからはずされて、あ…

おじいさんのランプ(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (449字。目安の読了時間:1分) 見なよ、あの天井のとこを。ながねんのランプの煤であそこだけ真黒になっとるに。ランプはもうあそこにいついてしまったんだ。今になって電気たらいう便利なもんができたからとて、あそこからはずされて、あ…

おじいさんのランプ(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (401字。目安の読了時間:1分) … と巳之助が一人であざわらいながら、知合いの甘酒屋にはいってゆくと、いつも土間のまん中の飯台の上に吊してあった大きなランプが、横の壁の辺に取りかたづけられて、あとにはそのランプをずっと小さくし…

おじいさんのランプ(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (576字。目安の読了時間:2分) 巳之助にはよくのみこめなかった。 電気のことなどまるで知らなかったからだ。 ランプの代りになるものらしいのだが、そうとすれば、電気というものはあかりにちがいあるまい。 あかりなら、家の中にともせば…

おじいさんのランプ(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (445字。目安の読了時間:1分) 家には子供が二人あった。 「自分もこれでどうやらひとり立ちができたわけだ。まだ身を立てるというところまではいっていないけれども」と、ときどき思って見て、そのつど心に満足を覚えるのであった。 さて…

おじいさんのランプ(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (411字。目安の読了時間:1分) とききかえしたので、嘘のきらいな巳之助は、自分でためして見る気になり、区長さんのところから古新聞をもらって来て、ランプの下にひろげた。 やはり区長さんのいわれたことはほんとうであった。 新聞のこ…

おじいさんのランプ(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (518字。目安の読了時間:2分) そして今はもう、よその家の走り使いや子守をすることはやめて、ただランプを売るしょうばいだけにうちこんだ。 物干台のようなわくのついた車をしたてて、それにランプやほやなどをいっぱい吊し、ガラスの触…

おじいさんのランプ(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (467字。目安の読了時間:1分) 雑貨屋の婆さんは、しぶしぶ承知して、店の天井に釘を打ってランプを吊し、その晩からともした。 五日ほどたって、巳之助が草鞋を買ってもらいに行くと、雑貨屋の婆さんはにこにこしながら、こりゃたいへん便…

おじいさんのランプ(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (426字。目安の読了時間:1分) うちのランプをどんどん持ってって売ってくれ」 といって、ランプを巳之助に渡した。 巳之助はランプのあつかい方を一通り教えてもらい、ついでに提燈がわりにそのランプをともして、村へむかった。 藪や松林…

おじいさんのランプ(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (486字。目安の読了時間:1分) ランプ屋の主人は、見も知らぬどこかの小僧がそんなことをいったので、びっくりしてまじまじと巳之助の顔を見た。 そしていった。 「卸値で売れって、そりゃ相手がランプを売る家なら卸値で売ってあげてもい…

おじいさんのランプ(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (486字。目安の読了時間:1分) ランプ屋の主人は、見も知らぬどこかの小僧がそんなことをいったので、びっくりしてまじまじと巳之助の顔を見た。 そしていった。 「卸値で売れって、そりゃ相手がランプを売る家なら卸値で売ってあげてもい…

おじいさんのランプ(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (398字。目安の読了時間:1分) 巳之助はしばらくその店のまえで十五銭を握りしめながらためらっていたが、やがて決心してつかつかとはいっていった。 「ああいうものを売っとくれや」 と巳之助はランプをゆびさしていった。 まだランプとい…

おじいさんのランプ(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (492字。目安の読了時間:1分) 巳之助は駄賃の十五銭を貰うと、人力車とも別れてしまって、お酒にでも酔ったように、波の音のたえまないこの海辺の町を、珍らしい商店をのぞき、美しく明かるいランプに見とれて、さまよっていた。 呉服屋で…

おじいさんのランプ(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (519字。目安の読了時間:2分) まっくらな家の中を、人々は盲のように手でさぐりながら、水甕や、石臼や大黒柱をさぐりあてるのであった。 すこしぜいたくな家では、おかみさんが嫁入りのとき持って来た行燈を使うのであった。 行燈は紙を…

おじいさんのランプ(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (455字。目安の読了時間:1分) 馴れないこととてたいそう苦しかった。 しかし巳之助は苦しさなど気にしなかった。 好奇心でいっぱいだった。 なぜなら巳之助は、物ごころがついてから、村を一歩も出たことがなく、峠の向こうにどんな町があ…

おじいさんのランプ(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (432字。目安の読了時間:1分) 身を立てるのによいきっかけがないものかと、巳之助はこころひそかに待っていた。 すると或る夏の日のひるさがり、巳之助は人力車の先綱を頼まれた。 その頃岩滑新田には、いつも二、三人の人力曳がいた。 潮…

おじいさんのランプ(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (429字。目安の読了時間:1分) 今から五十年ぐらいまえ、ちょうど日露戦争のじぶんのことである。 岩滑新田の村に巳之助という十三の少年がいた。 巳之助は、父母も兄弟もなく、親戚のものとて一人もない、まったくのみなしごであった。 そ…

おじいさんのランプ(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (478字。目安の読了時間:1分) ねえやにお茶をいいつけておいて、すっぽんと煙管筒をぬきながら、こういった。 「東坊、このランプはな、おじいさんにはとてもなつかしいものだ。長いあいだ忘れておったが、きょう東坊が倉の隅から持出して…

おじいさんのランプ(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (426字。目安の読了時間:1分) 日ぐれに東一君は家へ帰って来た。 奥の居間のすみに、あのランプがおいてあった。 しかし、ランプのことを何かいうと、またおじいさんにがみがみいわれるかも知れないので、黙っていた。 夕御飯のあとの退屈…