ブンゴウメール公式ブログ

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2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

三十年後の東京(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (500字。目安の読了時間:1分) 風洞の中を、気密列車が砲弾のように遠く走っていく、というよりも飛んでいくのですな。十八時間でサンフランシスコへつくんですよ」 「そんなものができたんですか。航空路でもいけるんでしょう」 「空中旅…

三十年後の東京(29/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (483字。目安の読了時間:1分) 海底へ都市をのばして行くのです。また海底を掘って、その下にある重要資源を掘りだしています。大昔も、炭鉱で海底に出ているのもありましたね。ああいうものがもっと大仕掛になったのです。人も住んでいま…

三十年後の東京(28/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (479字。目安の読了時間:1分) 「やあ、やっぱり水族館ですね」 うすあかるい青い光線のただよっている海水の中を、魚の群が元気よく泳ぎまわっている。 こんぶやわかめなどの海草の林が見え、岩の上にはなまこがはっている。 いそぎんちゃ…

三十年後の東京(27/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (617字。目安の読了時間:2分) 昔は太陽の光と能率のわるい肥料で永くかかって栽培していましたが、今はそれに代って、適当なる化学線と電気とすぐれた植物ホルモンをあたえることによって、たいへんりっぱな、そして栄養になるものを短い…

三十年後の東京(26/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (487字。目安の読了時間:1分) 地中では、太陽の光と熱とをもたらすことができないから、農作物が育つわけがない。 「ここです。はいりましょう」 大きなビルの中に案内された。 こんな会社のような建物の中に、いったいどんな農場があるの…

三十年後の東京(25/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (527字。目安の読了時間:2分) 中でも一番苦しかったのは、食糧だった。 「ああ、そうそう」と正吉はいった。 「ねえ区長さん。田畑や果樹園はどうなっているのですか。地上を攻撃されるおそれがあるんなら、地上でおちおち畑をつくっても…

三十年後の東京(24/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (500字。目安の読了時間:1分) びっくり農場 思いがけない母親とのめぐりあいに、正吉少年はたいへん元気づいた。 見しらぬ世界のまっただ中へとびこんだひとりぼっちの心細さ――というようなものが、とたんに消えてしまった。 「これからど…

三十年後の東京(23/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (465字。目安の読了時間:1分) そのときだった。 りっぱなひげをはやした三十あまりになる紳士と、それよりすこし下かと思われる婦人とが、かけこんで来た。 「あ、お母さん。ここへ、兄さんが訪ねて来てくれたんですって」 「あたしの兄さ…

三十年後の東京(22/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (495字。目安の読了時間:1分) なつかしい母親の笑顔だった。 「かっこうなんか、どうでもいいのですよ。その人工心臓の力によって、もっともっと長生きをして下さい」 「お医者さまは、あたしの悪い心臓を人工心臓にとりかえたので、これ…

三十年後の東京(21/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (505字。目安の読了時間:2分) お母さんは一度心臓病で死にかけたんだけれど、人工心臓をつけていただいてこのとおり丈夫になったんですよ」 「人工心臓ですって」 「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢のようなものを背おっているでし…

三十年後の東京(20/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (522字。目安の読了時間:2分) 地面の中にもぐっていて、青空が見えるはずがない」 正吉は、うっかり思いまちがいしていたことに気がついて、顔があかくなった。 しかし、それほどほんものの秋空に見えるのだった。 区長は、正吉を、りっぱ…

三十年後の東京(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (508字。目安の読了時間:2分) しかし母は、もう死んでいますよ」 「いや、そのことはやがて分りましょう。これから町を見物しながら、そちらへご案内してみましょう」 人工心臓 正吉は、区長たちからなぐさめられて、すこし元気をとりもど…

三十年後の東京(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (535字。目安の読了時間:2分) ちょうど布ぎれのないときでしたからぼくのお母さんは、それを揃えるのにずいぶん苦労しましたよ。――ああ、そういえば、ぼくのお母さんは……」 と、正吉は声をくもらせて、はなをすすった。 「どうしました、…

三十年後の東京(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (510字。目安の読了時間:2分) たとえば空気は念入りに浄化され、有害なバイキンはすっかり殺されてから、この地下へ送りこまれます。また方々に浄化塔があって、中でもって空気をきれいにしています。ごらんなさい、むこうに美しい広告塔…

三十年後の東京(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (529字。目安の読了時間:2分) 昔は六大都市といったり、そのほか中小都市がたくさんありましたが、いまは地上にはそんなものは残っていません。しかし、地の中のにぎわいは大したものですよ。これからそっちへご案内いたしましょう」 正吉…

三十年後の東京(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) わが地球人類の中の悪いやつが、ひそかに原子弾をかくして持っていましてね、それを飛行機につんで持って来て、空からおとすのです」 「どうしてでしょうか」 「どうしてでしょうかと、おっしゃいますか。つ…

三十年後の東京(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (610字。目安の読了時間:2分) そのために、われわれ地球人類の力は弱くなり、いざ星人がやってきたときには防衛力が弱くて、かんたんに彼らの前に手をつき、頭をさげなければならないだろう。――それをおもえば、今われわれ人類の国と国と…

三十年後の東京(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (588字。目安の読了時間:2分) 「で、戦争は起ったのですか、それとも……」 「もう一つの重大なことがらは」 と区長は正吉の質問にはこたえず、さっきの続きを話した。 「連合科学協会員は最近天空においておどろくべき観測をした。それはど…

三十年後の東京(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (504字。目安の読了時間:2分) その後また大きな戦争がおこりかけましてね――もちろん日本は関係がないのですがね――そのために、おびただしい原子爆弾が用意されました。そのとき世界の学者が集って組織している連合科学協会というのがあっ…

三十年後の東京(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (537字。目安の読了時間:2分) あれは何ですか」 林と草原の間に、妙にねじれた塔や、低い緑色の鍋をふせたようなものが見える。 「あのまるいものは、住宅の屋上になっています。塔は、原子弾が近づくのを監視している警戒塔です。すべて…

三十年後の東京(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (536字。目安の読了時間:2分) 何にのるのですか」 「動く道路です。そうそう、あなたの住んでいた三十年前には、動く道路はなかったんでしょうね。そのころは電車や自動車ばかりだったんでしょう。今はそんなものは、ほとんどなくなりまし…

三十年後の東京(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (471字。目安の読了時間:1分) 例の四人組の外に、東京区長のカニザワ氏と大学病院長のサクラ女史が少年をとりまいていたが、少年は三十年前の話をいろいろとした。 そして三十年後の東京がどんなに変っているか、あまりに変っているのでそ…

三十年後の東京(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) かわりはてた銀座 「二十年たったら、世の中がどんなに変っているか、それを見たかったから、こんな冒険をしたんです」 と、小杉少年は、まわりの人たちに話した。 「ああ、お話中しつれいですが、じつは二十…

三十年後の東京(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (569字。目安の読了時間:2分) これは、中からは外が見えないが、反対に外から中はよく見えるものだった。 こんなついたてを用いたわけは、金属球の中から出て来るはずの小杉正吉少年を、あまりたくさんの見物人のためにびっくりさせないた…

三十年後の東京(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (509字。目安の読了時間:2分) 五トンぐらいのものがらくにもちあがるヘリコプター(竹とんぼ式飛行機)を一台至急ここまでまわしてくれるように、航空商会の千代田支店に頼んだ。 二十分ほどすると、空から一台のヘリコプターがゆうゆうと…

三十年後の東京(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (547字。目安の読了時間:2分) この球を発見せられたる人は、この球が封印したるときより二十年以上たっていることをたしかめた後、この少年を冷凍球の中からとりだしていただきたい。 それはむずかしいことではない。 この底のBとしるし…

三十年後の東京(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (570字。目安の読了時間:2分) もっと上にあったのが、ころがりだして、ここまで来て停ったんだと思う」 「火星からなげてよこしたものじゃないか。開けると、中から火星人の手紙かなんか入っているんじゃない?」 「火星からじゃないよ。…

三十年後の東京(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (463字。目安の読了時間:1分) みんな何となくおそろしいが、しかし自分たちで発見したものだから、ぜひその正体をたしかめたかった。 ようやくそばへ近よることが出来た。 沢のまん中に、直径三メートルもあると思われる金属球が、でんと…

三十年後の東京(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (520字。目安の読了時間:2分) 地図でみると、どうしてもここは、うばガ谷のはずなんだが?」 「でも、へんよ。地図からはかって、ここはどうしてもうばガ谷よ。この地図をごらんなさい。ほら、この岩」 「なるほどなあ、あれはたしかに三…

三十年後の東京(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (484字。目安の読了時間:1分) 万年雪とける 昭和五十二年の夏は、たいへん暑かった。 ことに七月二十四日から一週間の暑さときたら、まったく話にならないほどの暑さだった。 涼しいはずの信州や上越の山国地方においてさえ、夜は雨戸をあ…