ブンゴウメール公式ブログ

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2019-01-01から1年間の記事一覧

武蔵野(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (680字。目安の読了時間:2分) すなわち木はおもに楢の類いで冬はことごとく落葉し、春は滴るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数里の野いっせいに行なわれて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑蔭に紅葉に、…

武蔵野(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (586字。目安の読了時間:2分) しばらくして薄雲かかり日光寒し」 同二十二日――「雪初めて降る」 三十年一月十三日――「夜更けぬ。風死し林黙す。雪しきりに降る。燈をかかげて戸外をうかがう、降雪火影にきらめきて舞う。ああ武蔵野沈黙す…

武蔵野(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (593字。目安の読了時間:2分) 星光一点、暮色ようやく到り、林影ようやく遠し」 同十八日――「月を蹈んで散歩す、青煙地を這い月光林に砕く」 同十九日――「天晴れ、風清く、露冷やかなり。満目黄葉の中緑樹を雑ゆ。小鳥梢に囀ず。一路人影…

武蔵野(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (630字。目安の読了時間:2分) 林はまだ夏の緑のそのままでありながら空模様が夏とまったく変わってきて雨雲の南風につれて武蔵野の空低くしきりに雨を送るその晴間には日の光水気を帯びてかなたの林に落ちこなたの杜にかがやく。 自分はし…

武蔵野(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (537字。目安の読了時間:2分) それで今、すこしく端緒をここに開いて、秋から冬へかけての自分の見て感じたところを書いて自分の望みの一少部分を果したい。 まず自分がかの問に下すべき答は武蔵野の美今も昔に劣らずとの一語である。 昔…

武蔵野(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (576字。目安の読了時間:2分) 一 「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と自分は文政年間にできた地図で見たことがある。 そしてその地図に入間郡「小手指原久米川は古戦場なり太平記元弘三年五月十一日源平小手指原にて戦うこと一日…

おじいさんのランプ(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (429字。目安の読了時間:1分) 思いついたら、深くも考えず、ぱっぱっとやってしまったんだ」 「馬鹿しちゃったね」 と東一君は孫だからえんりょなしにいった。 「うん、馬鹿しちゃった。しかしね、東坊――」 とおじいさんは、きせるを膝の…

おじいさんのランプ(29/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (425字。目安の読了時間:1分) 「そいじゃ、残りの四十七のランプはどうした?」 と東一君はきいた。 「知らん。次の日、旅の人が見つけて持ってったかも知れない」 「そいじゃ、家にはもう一つもランプなしになっちゃった?」 「うん、ひ…

おじいさんのランプ(28/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (419字。目安の読了時間:1分) 「お前たちの時世はすぎた。世の中は進んだ」 と巳之助はいった。 そしてまた一つ石ころを拾った。 二番目に大きかったランプが、パリーンと鳴って消えた。 「世の中は進んだ。電気の時世になった」 三番目の…

おじいさんのランプ(27/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (418字。目安の読了時間:1分) あかりをしたって寄って来た魚が、水の中にきらりきらりとナイフのように光った。 「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」 と巳之助は一人でいった。 しかし立去りかねて、ながいあいだ両手を垂れたままラン…

おじいさんのランプ(26/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (424字。目安の読了時間:1分) それにみな石油をついだ。 そしていつもあきないに出るときと同じように、車にそれらのランプをつるして、外に出た。 こんどはマッチを忘れずに持って。 道が西の峠にさしかかるあたりに、半田池という大きな…

おじいさんのランプ(25/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (431字。目安の読了時間:1分) それだけ世の中がひらけたのである。 文明開化が進んだのである。 巳之助もまた日本のお国の人間なら、日本がこれだけ進んだことを喜んでいいはずなのだ。 古い自分のしょうばいが失われるからとて、世の中の…

おじいさんのランプ(24/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (419字。目安の読了時間:1分) 火花は飛んだが、ほくちがしめっているのか、ちっとも燃えあがらないのであった。 巳之助は火打というものは、あまり便利なものではないと思った。 火が出ないくせにカチカチと大きな音ばかりして、これでは…

おじいさんのランプ(23/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (468字。目安の読了時間:1分) みぞの中を鼬のように身をかがめて走ったり、藪の中を捨犬のようにかきわけたりしていった。 他人に見られたくないとき、人はこうするものだ。 区長さんの家には長い間やっかいになっていたので、よくその様…

おじいさんのランプ(22/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (447字。目安の読了時間:1分) 村会がすんで、いよいよ岩滑新田の村にも電燈をひくことにきまったと聞かされたときにも、巳之助は脳天に一撃をくらったような気がした。 こうたびたび一撃をくらってはたまらない、頭がどうかなってしまう、…

おじいさんのランプ(21/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) 電燈がともるようになれば、村人たちはみんなランプを、あの甘酒屋のしたように壁の隅につるすか、倉の二階にでもしまいこんでしまうだろう。 ランプ屋のしょうばいはいらなくなるだろう。 だが、ランプでさ…

おじいさんのランプ(20/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (446字。目安の読了時間:1分) ちょっと外へくびを出して町通りを見てごらんよ」 巳之助はむっつりと入口の障子をあけて、通りをながめた。 どこの家どこの店にも、甘酒屋のと同じように明かるい電燈がともっていた。 光は家の中にあまつて…

おじいさんのランプ(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (449字。目安の読了時間:1分) 見なよ、あの天井のとこを。ながねんのランプの煤であそこだけ真黒になっとるに。ランプはもうあそこにいついてしまったんだ。今になって電気たらいう便利なもんができたからとて、あそこからはずされて、あ…

おじいさんのランプ(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (449字。目安の読了時間:1分) 見なよ、あの天井のとこを。ながねんのランプの煤であそこだけ真黒になっとるに。ランプはもうあそこにいついてしまったんだ。今になって電気たらいう便利なもんができたからとて、あそこからはずされて、あ…

おじいさんのランプ(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (401字。目安の読了時間:1分) … と巳之助が一人であざわらいながら、知合いの甘酒屋にはいってゆくと、いつも土間のまん中の飯台の上に吊してあった大きなランプが、横の壁の辺に取りかたづけられて、あとにはそのランプをずっと小さくし…

おじいさんのランプ(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (576字。目安の読了時間:2分) 巳之助にはよくのみこめなかった。 電気のことなどまるで知らなかったからだ。 ランプの代りになるものらしいのだが、そうとすれば、電気というものはあかりにちがいあるまい。 あかりなら、家の中にともせば…

おじいさんのランプ(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (445字。目安の読了時間:1分) 家には子供が二人あった。 「自分もこれでどうやらひとり立ちができたわけだ。まだ身を立てるというところまではいっていないけれども」と、ときどき思って見て、そのつど心に満足を覚えるのであった。 さて…

おじいさんのランプ(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (411字。目安の読了時間:1分) とききかえしたので、嘘のきらいな巳之助は、自分でためして見る気になり、区長さんのところから古新聞をもらって来て、ランプの下にひろげた。 やはり区長さんのいわれたことはほんとうであった。 新聞のこ…

おじいさんのランプ(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (518字。目安の読了時間:2分) そして今はもう、よその家の走り使いや子守をすることはやめて、ただランプを売るしょうばいだけにうちこんだ。 物干台のようなわくのついた車をしたてて、それにランプやほやなどをいっぱい吊し、ガラスの触…

おじいさんのランプ(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (467字。目安の読了時間:1分) 雑貨屋の婆さんは、しぶしぶ承知して、店の天井に釘を打ってランプを吊し、その晩からともした。 五日ほどたって、巳之助が草鞋を買ってもらいに行くと、雑貨屋の婆さんはにこにこしながら、こりゃたいへん便…

おじいさんのランプ(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (426字。目安の読了時間:1分) うちのランプをどんどん持ってって売ってくれ」 といって、ランプを巳之助に渡した。 巳之助はランプのあつかい方を一通り教えてもらい、ついでに提燈がわりにそのランプをともして、村へむかった。 藪や松林…

おじいさんのランプ(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (486字。目安の読了時間:1分) ランプ屋の主人は、見も知らぬどこかの小僧がそんなことをいったので、びっくりしてまじまじと巳之助の顔を見た。 そしていった。 「卸値で売れって、そりゃ相手がランプを売る家なら卸値で売ってあげてもい…

おじいさんのランプ(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (486字。目安の読了時間:1分) ランプ屋の主人は、見も知らぬどこかの小僧がそんなことをいったので、びっくりしてまじまじと巳之助の顔を見た。 そしていった。 「卸値で売れって、そりゃ相手がランプを売る家なら卸値で売ってあげてもい…

おじいさんのランプ(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (398字。目安の読了時間:1分) 巳之助はしばらくその店のまえで十五銭を握りしめながらためらっていたが、やがて決心してつかつかとはいっていった。 「ああいうものを売っとくれや」 と巳之助はランプをゆびさしていった。 まだランプとい…

おじいさんのランプ(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (492字。目安の読了時間:1分) 巳之助は駄賃の十五銭を貰うと、人力車とも別れてしまって、お酒にでも酔ったように、波の音のたえまないこの海辺の町を、珍らしい商店をのぞき、美しく明かるいランプに見とれて、さまよっていた。 呉服屋で…