ブンゴウメール公式ブログ

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2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

機械(30/30)

(782字。目安の読了時間:2分) そうして私が屋敷を殺害するのなら酒を飲ましておいてその上重クロム酸アンモニアを飲ますより仕方がないと思ったことさえあることから考えても、彼もそのように一度は思ったにちがいないであろうから。だが、酒に酔っていた…

機械(29/30)

(766字。目安の読了時間:2分) 実際そういう時には若者達は酒でも飲むより仕方のないときなのだがそれがこの酒のために屋敷の生命までが亡くなろうとは屋敷だって思わなかったにちがいない。 その夜私たち三人は仕事場でそのまま車座になって十二時過ぎま…

機械(28/30)

(816字。目安の読了時間:2分) …かじめ主人が金を落すであろうと予想してついていったというのだから、このことだけは予想に違わず事件は進行していたのにちがいないが、ふと久し振りに大金を儲けた楽しさからたとえ一瞬の間でも良い儲けた金額を持ってみ…

機械(27/30)

(903字。目安の読了時間:2分) …敷の優れた智謀に驚かされるばかりとなったので、私も忌々しくなって来て屋敷にそんなにうまく君が私を使ったからには暗室の方も定めしうまくいったのであろうというと、彼は彼で手馴れたもので君までそんなことをいうよう…

機械(26/30)

(856字。目安の読了時間:2分) そう思ってはみても結局二人から、同時に殴られなかったのは屋敷だけで一番殴られるべき責任のある筈の彼が一番うまいことをしたのだから私も彼を一度殴り返すぐらいのことはしても良いのだがとにかくもうそのときはぐったり…

機械(25/30)

(863字。目安の読了時間:2分) 軽部は前後から殴り出されると主力を屋敷に向けて彼を蹴りつけようとしたので私は軽部を背後へ引いて邪魔をすると、その暇に屋敷は軽部を押し倒して馬乗りになってまた殴り続けた。私は屋敷のそんなにも元気になったのに驚い…

機械(24/30)

(844字。目安の読了時間:2分) 私は屋敷の弁解が出鱈目だとは分っていたが殴る軽部の掌の音があまり激しいのでもう殴るのだけはやめるが良いというと、軽部は急に私の方を振り返って、それでは二人は共謀かという。だいたい共謀かどうかこういうことは考え…

ブンゴウメール公式ブログを移行します

いつもブンゴウメールをご愛読いただきありがとうございます。 本日よりブンゴウメールの公式ブログをはてなブログから移行いたしました。 ブログのURL、RSSフィードのURLなどは従来どおりで変更もないため、特に読者側での対応などは必要ありません。 ただ…

機械(23/30)

(822字。目安の読了時間:2分) それにしてもあれほど醜い顔をし続けながらまだ白状しない屋敷を思うといったい屋敷は暗室から何か確実に盗みとったのであろうかどうかと思われて、今度は屋敷の混乱している顔面の皺から彼の秘密を読みとることに苦心し始め…

機械(22/30)

(850字。目安の読了時間:2分) ところが、急がしい市役所の仕事が漸く片附きかけた頃のこと、或る日軽部は急に屋敷を仕事場の断裁機の下へ捻じ伏せてしきりに白状せよ白状せよと迫っているのだ。思うに屋敷はこっそり暗室へ這入ったところを軽部に見附けら…

機械(21/30)

(879字。目安の読了時間:2分) 多分屋敷ほどの男のことだから他人の家の暗室へ一度這入れば見る必要のある重要なことはすっかり見てしまったにちがいないのだし、見てしまった以上は殺害することも出来ない限り見られ損になるだけでどうしようも追っつくも…

機械(20/30)

(791字。目安の読了時間:2分) それでは君は私から疑われたとそれほど早く気附くからには君も這入って来るなり私から疑われることに対してそれほど警戒する練習が出来ていたわけだと私がいうと、それはそうだと彼はいった。しかし、彼がそれはそうだといっ…

機械(19/30)

(821字。目安の読了時間:2分) 前に軽部を有頂天にさせて秘密を饒舌らせてしまった彼の魅力が私へも次第に乗り移って来始めたのだ。私は屋敷と新聞を分け合って読んでいても共通の話題になると意見がいつも一致して進んでいく。化学の話になっても理解の速…

機械(18/30)

(810字。目安の読了時間:2分) それを知られてしまえばここの製作所にとっては莫大な損失であるばかりではない、私にしたっていままでの秘密は秘密ではなくなって生活の面白さがなくなるのだ。向うが秘密を盗もうとするならこちらはそれを隠したってかまわ…

機械(17/30)

(748字。目安の読了時間:2分) すると細君は、お金をとったのはあなただぐらいのことはいくら寝坊の私だって知っているのだ。盗るのならもっと上手にとって貰いたいと澄ましていうと主人は一層大きな声で面白そうに笑い続けた。それでは昨夜主婦の部屋へ這…

機械(16/30)

(827字。目安の読了時間:2分) それにしても軽部がそんなにうまく秘密を饒舌ったのも彼のそのときの調子に乗った慢心だけではない、確に彼にそんなにも饒舌らせた屋敷の風※(ふうぼう)が軽部の心をそのとき浮き上らせてしまったのにちがいないのだ。屋敷…

機械(15/30)

(817字。目安の読了時間:2分) しかし、そんなことを口にでも出して饒舌ったら軽部は屋敷をどんな目に逢わすかしれないので暫く黙って彼の様子を見ていることにしていると、屋敷の注意はいつも軽部の槽の揺り方にそそがれているのを私は発見した。屋敷の仕…

機械(14/30)

(870字。目安の読了時間:2分) それで私は軽部が私を窓の傍から劇薬の這入っている腐蝕用のバットの傍まで連れていくと、急に軽部の方へ向き返って、君は私をそんなに虐めるのは君の勝手だが私がいままで暗室の中でしていた実験は他人のまだしたことのない…

機械(13/30)

(742字。目安の読了時間:2分) …の顔を磨いてやろうといって横たわっている私の顔をアルミニュームの切片で埋め出し、その上から私の頭を洗うように揺り続けるのだが、街に並んだ家々の戸口に番号をつけて貼りつけられたあの小さなネームプレートの山で磨…

機械(12/30)

(1,017字。目安の読了時間:3分) 暫くして私はそのまま暗室へ這入ると仕かけておいた着色用のビスムチルを沈澱さすため、試験管をとってクロム酸加里を焼き始めたのだが軽部にとってはそれがまたいけなかったのだ。私が自由に暗室へ這入るということがすで…

機械(11/30)

(861字。目安の読了時間:2分) いったい主人の仕事をいつ盗んだか、主人の仕事を手伝うということが主人の仕事を盗むことなら君だって主人の仕事を盗んでいるのではないかといってやると、彼は暫く黙ってぶるぶる唇をふるわせてから急に私にこの家を出てい…

機械(10/30)

(800字。目安の読了時間:2分) しかし軽部は前まで誰も這入ることを許されなかった暗室の中へ自由に這入り出した私に気がつくと、私を見る顔色までが変って来た。あんなに早くから一にも主人二にも主人と思って来た軽部にも拘らず新参の私に許されたことが…

機械(9/30)

(750字。目安の読了時間:2分) 奇蹟などというものは向うが奇蹟を行うのではなく自身の醜さが奇蹟を行うのにちがいない。それからというものは全く私も軽部のように何より主人が第一になり始め、主人を左右している細君の何に彼に反感をさえ感じて来て、ど…

機械(8/30)

(786字。目安の読了時間:2分) しかし、私までが主婦や軽部がいまにもしかするとこっそり主人の仕事の秘密を盗み出して売るのではないかと思われて幾分の監視さえする気持ちになったところから見てさえも、主婦や軽部が私を同様に疑う気持ちはそんなに誤魔…

機械(7/30)

(864字。目安の読了時間:2分) 私がここの家から放れがたなく感じるのも主人のそのこの上もない善良さからであり、軽部が私の頭の上から金槌を落したりするのも主人のその善良さのためだとすると、善良なんていうことは昔から案外良い働きをして来なかった…

機械(6/30)

(812字。目安の読了時間:2分) 家のことを何一つ任かしておけないばかりではない、一人で済ませる用事も二人がかりで出かけたりその一人のいるために周囲の者の労力がどれほど無駄に費されているか分らぬのだが、しかしそれはそうにちがいないとしてもこの…

機械(5/30)

(908字。目安の読了時間:2分) いままでのこの家の悲劇の大部分も実にこの馬鹿げたことばかりなんだがそれにしてもどうしてこんなにここの主人は金銭を落すのか誰にも分らない。落してしまったものはいくら叱ったって嚇したって返って来るものでもなし、そ…

機械(4/30)

(910字。目安の読了時間:2分) …とただ彼をいらいらさせてみるのも彼に人間修養をさせてやるだけだとぐらいに思っておればそれで良ろしい、そう思った私はまるで軽部を眼中におかずにいると、その間に彼の私に対する敵意は急速な調子で進んでいてこの馬鹿…

機械(3/30)

(792字。目安の読了時間:2分) ところが私と一緒に働いているここの職人の軽部は私がこの家の仕事の秘密を盗みに這入って来たどこかの間者だと思い込んだのだ。彼は主人の細君の実家の隣家から来ている男なので何事にでも自由がきくだけにそれだけ主家が第…

機械(2/30)

(878字。目安の読了時間:2分) 全く使い道のない人間というものは誰にも出来かねる箇所だけに不思議に使い道のあるもので、このネームプレート製造所でもいろいろな薬品を使用せねばならぬ仕事の中で私の仕事だけは特に劇薬ばかりで満ちていて、わざわざ使…