ブンゴウメール公式ブログ

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2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

絵のない絵本(31/59)

(745字。目安の読了時間:2分)窓からさしこむ月の光だけでは十分ではないので、もっと明るい光で照らさなければならなかったのです。そこには小さい女の子が人形のように、腕を心配そうに着物からはなし、指を一本一本ひろく開いて、かたくなって立ってい…

絵のない絵本(30/59)

(851字。目安の読了時間:2分)そこで監督は、美しいコロンビーナと陽気なアルレッキーノが出なくても見物人を失望させないように、何かほんとうに愉快なものを上演しなければなりませんでした。そのため、プルチネッラはいつもの二倍もおかしく振舞わなけ…

絵のない絵本(29/59)

(802字。目安の読了時間:2分)プルチネッラがすっかり不機嫌になっているときでも、コロンビーナだけはこの男をほほえませることのできる、いや大笑いをさせることのできるただひとりの人でした。最初のうちはコロンビーナもこの男といっしょに憂鬱になっ…

絵のない絵本(28/59)

(768字。目安の読了時間:2分) 盛りあがる大波のかなたの墓場へさすらい行く人々のために祈れよ!」[#改ページ]第十六夜「わたしはひとりのプルチネッラを知っています」と、月が言いました。「見物人はこの男の姿を見ると、大声にはやしたてます。この…

絵のない絵本(27/59)

(786字。目安の読了時間:2分)それで小さい女の子は、母親のそばにぐっとからだをすり寄せました。母親は、かけはじめたわたしのまるい月の輪を見上げながら、故郷でなめてきたひどい苦労のことを思いうかべたり、払うことのできなかった重い税金のことを…

絵のない絵本(26/59)

(771字。目安の読了時間:2分)だけども、人間は神さまの姿を見ることができない。だから、神さまが赤ん坊を連れていらっしゃるのも、ぼくたちには見えないのさ』 その瞬間、ニワトコの木の枝の中でザワザワという音がしました。子供たちは両手を合せて、互…

絵のない絵本(25/59)

(757字。目安の読了時間:2分)屋根は苔(こけ)でおおわれていて、黄色い花やイワレンゲが咲いています。小さい庭にはキャベツとばれいしょがあるだけですが、生垣にはニワトコが花をいっぱいに咲かせています。 その下に、ひとりの小さい女の子がすわって…

絵のない絵本(24/59)

(769字。目安の読了時間:2分)あの男を個人的にほめる者はいくらでもある。われわれはあの男を慢心させないようにしようじゃないか!』『疑う余地なき才能!』と、編集長は書きました。『だれにもありがちの不注意。この著者もまた不幸な詩句を書くことは…

絵のない絵本(23/59)

(769字。目安の読了時間:2分)ぼくの“家庭生活についての随想録”にりっぱな批評を書いたのは、この男なんですよ。若い人に対しては寛大でいてやりたいものです』『いや、あれはまったくの愚物ですよ』と、この部屋にいたもうひとりの紳士が言いました。『…

絵のない絵本(22/59)

(766字。目安の読了時間:2分)あの一団は歩み去ったのです。しかし、廃墟はあいもかわらず立っていました。これからもなお数百年のあいだ、このままに立ちつづけることでしょう。そしてこの瞬間の喝采のことも、美しい歌姫のことも、その歌声やほほえみの…

絵のない絵本(21/59)

(773字。目安の読了時間:2分)広い階段の前に高い祭壇があって、円柱のあいだに生えているしだれヤナギはいきいきとしていました。空気はすきとおって碧色をしていました。背景にはベスビオの山が黒々とそびえていて、そこから噴きでる火は笠松の幹のよう…

絵のない絵本(20/59)

(774字。目安の読了時間:2分)』それからランプを消しました。楽しい部屋の中はまっくらになりました。しかしわたしの光は、花婿の眼が輝いていたように、輝いていました。――女性よ、詩人が生命の神秘をうたうときには、その竪琴にキスをなさい!」[#改…

絵のない絵本(19/59)

(782字。目安の読了時間:2分)もの静かな老嬢は、生きているときは、年がら年じゅう家の中の同じ場所だけをゆっくりと動きまわっていましたのに、死んだいまとなって、このひろびろとした国道を真一文字に走って行くのでした。 わらのむしろで包んであった…

絵のない絵本(18/59)

(832字。目安の読了時間:2分)けれども、その友だちも死んでしまいましたので、去年はそれさえもしませんでした。わたしの老嬢はいつもひとりぽっちで、窓の中がわで立ち働いていました。そこには夏じゅう美しい花が咲き、冬には毛織帽子の上にきれいなタ…

絵のない絵本(17/59)

(770字。目安の読了時間:2分)ですから、その男の妻は、後になって死人のからだにさわらないでもいいように、夫のからだのまわりに皮の衣をしっかりと縫いつけて、たずねました。『あんたは、あの岩の上の固い雪の中に埋めてもらいたいの? それならわたし…

絵のない絵本(16/59)

(796字。目安の読了時間:2分) この地方に住んでいる人たちが踊りと娯楽のために集まっていましたが、この美しさを見ても、ふだん見なれているために、だれひとり驚く者はありませんでした。この人たちは、『死人の魂は、海象の頭といっしょに踊らせておけ…

絵のない絵本(15/59)

(862字。目安の読了時間:2分)ロメオが露台の上によじのぼって、まことの愛の接吻が天使の思いのように天へとのぼって行ったとき、まるい月は黒い糸杉のあいだに半ばかくれて、澄みきった空に浮んでいたこともあるのです。また、セント・ヘレナの島に幽閉…

絵のない絵本(14/59)

(788字。目安の読了時間:2分)美しい青白い顔を森のほうへ向けて、そこからひびいてくる物音に耳をかたむけました。海のかなたの大空を見上げたとき、女の子の眼はきらきらと輝きました。両手が合されました。『主の祈り』をとなえたように思われます。こ…

絵のない絵本(13/59)

(763字。目安の読了時間:2分)あたりの花は、たいへん強くにおいました。そよ風は静かにまどろみました。海はまるで、深い谷の上にひろがっている空の一部になったかのようでした。 また一台の馬車が通りすぎました。中には六人の客が乗っていました。その…

絵のない絵本(12/59)

(768字。目安の読了時間:2分)キイチゴの蔓(つる)とリンボクが、石の間からのびています。ここに、自然の中の詩があるのです。きみは、人々がこれをどんなふうに考えていると思いますか? そうだ、わたしがそこで、きのうの夕方から夜にかけて聞いたこと…

絵のない絵本(11/59)

(750字。目安の読了時間:2分)はだの見える地面が、大きな文字や名前となって現われています。そしてそういう文字や名前が、大きな丘の上に張られた一つの網のようになっているのです。いわば一種の不滅です。もっとも、それをまた新しい芝生がおおってい…

絵のない絵本(10/59)

(773字。目安の読了時間:2分) 華麗な広間、戦っている人々の群れ! 引裂かれた旗は床の上に落ちていました。三色旗は銃剣の先にはためいていました。そして玉座の上には、青ざめて聖らかな顔をした貧しい男の子が、眼を天へ向けて横たわっていました。手…

絵のない絵本(9/59)

(752字。目安の読了時間:2分)『これはそのビロードじゃなかったんだよ』と、番人は言いました。そう言う番人の口もとには、微笑がただよいました。『でも、ここでしたよ!』と、お婆さんは言いました。『こんなふうだったんですもの!』『こんなだったか…

絵のない絵本(8/59)

(799字。目安の読了時間:2分) オーケストラのすぐそばに、若い公爵夫妻が、二つの古い肘掛いすに腰かけているのが見えました。いつもなら、この席には町長夫妻がすわることになっていたのですが、今夜ばかりは、ほかの町の人たちとおなじように、木のベン…

絵のない絵本(7/59)

(766字。目安の読了時間:2分)女は、もう死んでいたのです。あけはなたれた窓から、死んだ女が、人間のありかたをといていました。牧師の家の庭の、わたしのバラの花が!」[#改ページ]第四夜「わたしは、今夜、ドイツ喜劇を見てきました」と、月が言い…

絵のない絵本(6/59)

(744字。目安の読了時間:2分) それから十年たって、わたしは、その娘をもう一度見ました。こんどは、はなやかな舞踏室にいるのを見たのです。そのときは、ある金持の商人の、美しい花嫁になっていたのでした。わたしは娘の幸福をよろこんで、静かな夜ごと…

絵のない絵本(5/59)

(789字。目安の読了時間:2分)わたしは、このいけない子に、すっかり腹をたててしまいました。ですから、父親が出てきて、きのうよりももっとひどくしかりつけて、女の子の腕をつかんだときには、ほんとにうれしくなりました。女の子は、頭をうしろへそら…

絵のない絵本(4/59)

(806字。目安の読了時間:2分)娘は、その明りが、自分の眼に見えるかぎりのあいだ、もえつづけていれば、愛する人はまだ生きている、けれども、もしも消えてしまえば、もうこの世にはいないのだということを、知っていたのです。見れば、明りは、もえなが…

絵のない絵本(3/59)

(773字。目安の読了時間:2分)[#改ページ]第一夜「ゆうべ」これは、月が話したとおりの言葉です。「わたしは、インドの澄みきった空気の中をすべって、ガンジス河にわたしの姿をうつしていました。わたしの光は、古いプラタナスの葉が、ちょうどカメの…

絵のない絵本(2/59)

(821字。目安の読了時間:2分)あの故郷の、沼地のそばに生えている、ヤナギの木のあいだから、わたしを見おろしたときと、すこしもかわらない月だったのです。わたしは、自分の手にキスをして、月にむかって投げてやりました。すると、月はまっすぐわたし…