ブンゴウメール公式ブログ

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2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

僕の帽子のお話(6/15)

(523字。目安の読了時間:2分)まあよかったと安心しながら、それを拾おうとすると、帽子は上手に僕の手からぬけ出して、ころころと二、三間先に転がって行くではありませんか。僕は大急ぎで立ち上がってまたあとを追いかけました。そんな風にして、帽子は…

僕の帽子のお話(5/15)

(486字。目安の読了時間:1分)僕はせかせかした気持ちになって、あっちこちを見廻わしました。 そうしたら中の口の格子戸に黒いものが挟まっているのを見つけ出しました。電燈の光でよく見ると、驚いたことにはそれが僕の帽子らしいのです。僕は夢中になっ…

僕の帽子のお話(4/15)

(456字。目安の読了時間:1分)なんのこったと思うと、僕はひとりでに面白くなって、襖(ふすま)をがらっと勢よく開けましたが、その音におとうさんやおかあさんが眼をおさましになると大変だと思って、後ろをふり返って見ました。物音にすぐ眼のさめるお…

僕の帽子のお話(3/15)

(563字。目安の読了時間:2分)もしや手に持ったままで帽子のありかを探しているのではないかと思って、両手を眼の前につき出して、手の平と手の甲と、指の間とをよく調べても見ました。ありません。僕は胸がどきどきして来ました。 昨日買っていただいた読…

僕の帽子のお話(2/15)

(481字。目安の読了時間:1分) 眼をさましたら本の包はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。僕は驚いて、半分寝床から起き上って、あっちこっちを見廻わしました。おとうさんもおかあさんも、何にも知らないように、僕のそばでよ…

僕の帽子のお話(1/15)

(473字。目安の読了時間:1分)「僕の帽子はおとうさんが東京から買って来て下さったのです。ねだんは二円八十銭で、かっこうもいいし、らしゃも上等です。おとうさんが大切にしなければいけないと仰有いました。僕もその帽子が好きだから大切にしています…

一房の葡萄(15/15)

(448字。目安の読了時間:1分)先生はにこにこしながら僕に、「昨日の葡萄(ぶどう)はおいしかったの。」と問われました。僕は顔を真赤にして「ええ」と白状するより仕方がありませんでした。「そんなら又あげましょうね。」 そういって、先生は真白なリン…

一房の葡萄(14/15)

(472字。目安の読了時間:1分)僕はなんだか訳がわかりませんでした。学校に行ったらみんなが遠くの方から僕を見て「見ろ泥棒の※(うそ)つきの日本人が来た」とでも悪口をいうだろうと思っていたのにこんな風にされると気味が悪い程でした。 二人の足音を…

一房の葡萄(13/15)

(目安の読了時間:1分)僕はいつものように海岸通りを、海を眺めたり船を眺めたりしながらつまらなく家に帰りました。そして葡萄をおいしく喰べてしまいました。 けれども次の日が来ると僕は中々学校に行く気にはなれませんでした。お腹が痛くなればいいと…

一房の葡萄(12/15)

(489字。目安の読了時間:1分)あの位好きな先生を苦しめたかと思うと僕は本当に悪いことをしてしまったと思いました。葡萄(ぶどう)などは迚(とて)も喰(た)べる気になれないでいつまでも泣いていました。 ふと僕は肩を軽くゆすぶられて眼をさましまし…

一房の葡萄(11/15)

(497字。目安の読了時間:1分)ぶるぶると震えてしかたがない唇を、噛(か)みしめても噛みしめても泣声が出て、眼からは涙がむやみに流れて来るのです。もう先生に抱かれたまま死んでしまいたいような心持ちになってしまいました。「あなたはもう泣くんじ…

一房の葡萄(10/15)

(468字。目安の読了時間:1分)と聞かれました。本当なんだけれども、僕がそんないやな奴だということをどうしても僕の好きな先生に知られるのがつらかったのです。だから僕は答える代りに本当に泣き出してしまいました。 先生は暫く僕を見つめていましたが…

一房の葡萄(9/15)

(463字。目安の読了時間:1分)僕は出来るだけ行くまいとしたけれどもとうとう力まかせに引きずられて階子段を登らせられてしまいました。そこに僕の好きな受持ちの先生の部屋があるのです。 やがてその部屋の戸をジムがノックしました。ノックするとは這入…

一房の葡萄(8/15)

(541字。目安の読了時間:2分)すると誰だったかそこに立っていた一人がいきなり僕のポッケットに手をさし込もうとしました。僕は一生懸命にそうはさせまいとしましたけれども、多勢に無勢で迚(とて)も叶(かな)いません。僕のポッケットの中からは、見…

一房の葡萄(7/15)

(474字。目安の読了時間:1分)僕の胸は宿題をなまけたのに先生に名を指された時のように、思わずどきんと震えはじめました。けれども僕は出来るだけ知らない振りをしていなければならないと思って、わざと平気な顔をしたつもりで、仕方なしに運動場の隅に…

一房の葡萄(6/15)

(469字。目安の読了時間:1分) 僕達は若い女の先生に連れられて教場に這入り銘々の席に坐りました。僕はジムがどんな顔をしているか見たくってたまらなかったけれども、どうしてもそっちの方をふり向くことができませんでした。でも僕のしたことを誰も気の…

一房の葡萄(5/15)

(534字。目安の読了時間:2分)そしてその箱の中には小さい墨のような形をした藍や洋紅の絵具が……僕は顔が赤くなったような気がして、思わずそっぽを向いてしまうのです。けれどもすぐ又横眼でジムの卓の方を見ないではいられませんでした。胸のところがど…

一房の葡萄(4/15)

(470字。目安の読了時間:1分)僕はいやな気持ちになりました。けれどもジムが僕を疑っているように見えれば見えるほど、僕はその絵具がほしくてならなくなるのです。二 僕はかわいい顔はしていたかも知れないが体も心も弱い子でした。その上臆病者で、言い…

一房の葡萄(3/15)

ご登録き。目安の読了時間:1分) 今ではいつの頃だったか覚えてはいませんが秋だったのでしょう。葡萄(ぶどう)の実が熟していたのですから。天気は冬が来る前の秋によくあるように空の奥の奥まで見すかされそうに霽(は)れわたった日でした。僕達は先生…

一房の葡萄(2/15)

(476字。目安の読了時間:1分)その友達は矢張西洋人で、しかも僕より二つ位齢が上でしたから、身長は見上げるように大きい子でした。ジムというその子の持っている絵具は舶来の上等のもので、軽い木の箱の中に、十二種の絵具が小さな墨のように四角な形に…

一房の葡萄(1/15)

(489字。目安の読了時間:1分)一 僕は小さい時に絵を描くことが好きでした。僕の通っていた学校は横浜の山の手という所にありましたが、そこいらは西洋人ばかり住んでいる町で、僕の学校も教師は西洋人ばかりでした。そしてその学校の行きかえりにはいつで…