ブンゴウメール公式ブログ

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二銭銅貨(21/30)

(610字。目安の読了時間:2分)(Dancing Men 参照) で、俺は、俺の知っている限りの暗号記法を、一つ一つ頭に浮べて見た。そして、この紙片れの奴に似ているのを探した。随分手間取った。確か、その時君が飯屋へ行くことを勧めたっけ。俺はそれを断って一…

二銭銅貨(20/30)

(645字。目安の読了時間:2分)そこで、彼奴には、あの金を保管させる所の、手下乃至は相棒といった様なものがあるに相違ない。今仮にだ、彼奴が不意の捕縛の為に、五万円の隠し場所を相棒に知らせる暇がなかったとしたらどうだ。彼奴としては、未決監に居…

二銭銅貨(19/30)

(654字。目安の読了時間:2分)…弥陀仏、弥、南阿陀、無阿弥、南陀仏、南阿弥陀、阿陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無弥陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無陀、南無阿、阿陀仏、無阿弥、南阿、南阿仏、陀、南阿陀、南無、無弥仏、南弥仏、阿弥、弥、無弥…

二銭銅貨(18/30)

(756字。目安の読了時間:2分)見給えこれだ」 彼は、机の抽斗から、その二銭銅貨を取出して、丁度、宝丹の容器を開ける様に、ネジを廻しながら、上下に開いた。「これ、ね、中が空虚になっている。銅貨で作った何かの容器なんだ。なんと精巧な細工じゃない…

二銭銅貨(17/30)

(720字。目安の読了時間:2分)少くとも、君の頭よりは、俺の頭の方が優れているということじゃないかね」 二人の多少知識的な青年が、一間の内に生活していれば、其処に、頭のよさについての競争が行われるのは、至極あたり前のことであった。松村武と私と…

二銭銅貨(16/30)

(666字。目安の読了時間:2分)仮令このまま我々が頂戴して置いた所で、誰が疑うものか、我々にしたって、五千円よりは五万円の方が有難いではないか。 それよりも恐しいのは、彼奴、紳士泥坊の復讐である。こいつが恐しい。刑期の延びるのを犠牲にしてまで…

二銭銅貨(15/30)

(595字。目安の読了時間:2分)俺はどこの番頭さんかと思った」「シッ、シッ、大きな声だなあ」松村は両手で抑えつける様な恰好をして、囁(ささや)く様な小声で、「大変なお土産を持って来たよ」 というのである。「君はこんなに早く、どっかへ行って来た…

二銭銅貨(14/30)

(681字。目安の読了時間:2分)私は、松村のこの不思議な挙動については、読者にはまだ明してない所の、私丈けの深い興味を持っていた。それ故、彼に十円という、当時の私共に取っては、全財産の半分であったところの大金を与えることに、少しも異議を唱え…

二銭銅貨(13/30)

(638字。目安の読了時間:2分)彼は、この二枚の紙片れを、熱心に比較研究している様であった。そして、鉛筆を以て、新聞紙の余白に、何か書いては消し、書いては消していた。 そんなことをしている間に、電燈が点いたり、表通りを豆腐屋のラッパが通過ぎた…

二銭銅貨(12/30)

(638字。目安の読了時間:2分)そこで、まだ狂気じみた歩行を続けている松村に、飯屋に行かぬかと勧めて見た所が、「済まないが、君一人で行って呉れ」という返事だ。仕方なく、私はその通りにした。 さて、満腹した私が、飯屋から帰って来ると、なんと珍ら…

二銭銅貨(11/30)

(684字。目安の読了時間:2分)ところで君が詳しいというのなら、も少しあの煙草屋のことを話さないか」「ウン、話してもいい。爺さんと婆さんとの間に一人の娘がある。俺は一度か二度その娘を見かけたが、そう悪くない容色だぜ。それがなんでも、監獄の差…

二銭銅貨(10/30)

(657字。目安の読了時間:2分) ある日のこと、いい心持に※(ゆだ)って、銭湯から帰って来た私が、傷だらけの、毀れかかった一閑張の机の前に、ドッカと坐った時、一人残っていた松村武が、妙な、一種の興奮した様な顔付を以て、私にこんなことを聞いたの…

二銭銅貨(9/30)

(694字。目安の読了時間:2分)そこで、工場の当の責任者たる支配人は、その金を発見したものには、発見額の一割の賞を懸けるということを発表した。つまり五千円の懸賞である。 これからお話しようとする、松村武と私自身とに関する、一寸興味のある物語は…

二銭銅貨(8/30)

(639字。目安の読了時間:2分)一寸見ると普通のモーニングだが、実は手品使いの服の様に、附けられる丈けの隠し袋が附いているんです。五万円位の金を隠すのは訳はありません。支那人の手品使いは、大きな、水の這入った丼鉢でさえからだの中へ隠すではあ…

二銭銅貨(7/30)

(709字。目安の読了時間:2分) ところが愈々最終という日になって、今もお話した様に、偶然にも、飯田橋附近の一軒の旅館の前で、同じ吸殻を発見して、実は、あてずっぽうに、その旅館に探りを入れて見たのであるが、それがなんと僥倖(ぎょうこう)にも、…

二銭銅貨(6/30)

(638字。目安の読了時間:2分)というのは、その旅館の前の、下水の蓋を兼ねた、御影石の敷石の上に、余程注意深い人でなければ、眼にとまらない様な、一つの煙草の吸殻が落ちていた。そして、何んと、それが刑事の探し廻っていた所の埃及煙草と同じもので…

二銭銅貨(5/30)

(656字。目安の読了時間:2分) 斯様にして、一週間は過ぎたけれども賊は挙がらない。もう絶望かと思われた。彼の泥坊が、何か他の罪をでも犯して挙げられるのを待つより外はないかと思われた。工場の事務所からは、其筋の怠慢を責める様に、毎日毎日警察署…

二銭銅貨(4/30)

(643字。目安の読了時間:2分)そこで、警察へ電話をかけるやら、賃銀支払を延す訳には行かぬので、銀行へ改めて二十円札と十円札の準備を頼むやら、大変な騒ぎになったのである。 彼の新聞記者と自称して、お人よしの支配人に無駄な議論をさせた男は、実に…

二銭銅貨(3/30)

(740字。目安の読了時間:2分) 支配人は、無作法な奴だ位で、別に気にもとめないで、丁度昼食の時間だったので、食堂へと出掛けて行ったが、暫くすると近所の洋食屋から取ったビフテキか何かを頬張っていた所の支配人の前へ、会計主任の男が、顔色を変えて…

二銭銅貨(2/30)

(653字。目安の読了時間:2分)のみならず、新聞記者を相手に、法螺を吹いたり、自分の話が何々氏談などとして、新聞に載せられたりすることは、大人気ないとは思いながら、誰しも悪い気持はしないものである。社会部記者と称する男は、寧ろ快く支配人の部…

二銭銅貨(1/30)

(653字。目安の読了時間:2分)上「あの泥坊が羨しい」二人の間にこんな言葉が交される程、其頃は窮迫していた。 場末の貧弱な下駄屋の二階の、ただ一間しかない六畳に、一閑張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり逞(たくま)しゅ…

トカトントン(31/31)

(411字。目安の読了時間:1分)花江さんなんて女もいないし、デモも見たのじゃないんです。その他の事も、たいがいウソのようです。 しかし、トカトントンだけは、ウソでないようです。読みかえさず、このままお送り致します。敬具。 この奇異なる手紙を受…

トカトントン(30/31)

(468字。目安の読了時間:1分)「人生というのは、一口に言ったら、なんですか」 と私は昨夜、伯父の晩酌の相手をしながら、ふざけた口調で尋ねてみました。「人生、それはわからん。しかし、世の中は、色と慾さ」 案外の名答だと思いました。そうして、ふ…

トカトントン(29/31)

(494字。目安の読了時間:1分)ほとんど虚無の情熱だと思いました。それが、その時の私の空虚な気分にぴったり合ってしまったのです。 私は局員たちを相手にキャッチボールをはじめました。へとへとになるまで続けると、何か脱皮に似た爽やかさが感ぜられ、…

トカトントン(28/31)

(472字。目安の読了時間:1分)このひとたちが、一等をとったって二等をとったって、世間はそれにほとんど興味を感じないのに、それでも生命懸けで、ラストヘビーなんかやっているのです。別に、この駅伝競争に依って、所謂文化国家を建設しようという理想…

トカトントン(27/31)

(435字。目安の読了時間:1分)…の指の股を蛙(かえる)の手のようにひろげ、空気を掻き分けて進むというような奇妙な腕の振り工合で、そうしてまっぱだかにパンツ一つ、もちろん裸足で、大きい胸を高く突き上げ、苦悶の表情よろしく首をそらして左右にうご…

トカトントン(26/31)

(659字。目安の読了時間:2分)あのトカトントンの幻聴は、虚無をさえ打ちこわしてしまうのです。 夏になると、この地方の青年たちの間で、にわかにスポーツ熱がさかんになりました。私には多少、年寄りくさい実利主義的な傾向もあるのでしょうか、何の意味…

トカトントン(25/31)

(462字。目安の読了時間:1分)若い女のひとたちも、手に旗を持って労働歌を歌い、私は胸が一ぱいになり、涙が出ました。ああ、日本が戦争に負けて、よかったのだと思いました。生れてはじめて、真の自由というものの姿を見た、と思いました。もしこれが、…

トカトントン(24/31)

(405字。目安の読了時間:1分)…てはしゃいでいるけれども、これはまた敗戦便乗とでもいうのでしょうか、無条件降伏の屍(しかばね)にわいた蛆虫のような不潔な印象を消す事が出来ず、四月十日の投票日にも私は、伯父の局長から自由党の加藤さんに入れるよ…

トカトントン(23/31)

(678字。目安の読了時間:2分)また自分が、どのような運動に参加したって、所詮はその指導者たちの、名誉慾か権勢慾の乗りかかった船の、犠牲になるだけの事だ。何の疑うところも無く堂々と所信を述べ、わが言に従えば必ずや汝(なんじ)自身ならびに汝の…