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【ブンゴウメール】夢十夜 (1/29)

(747字。目安の読了時間:2分)



第一夜


 こんな夢を見た。


 腕組をして枕元に坐(すわ)っていると、仰向(あおむき)に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。
女は長い髪を枕に敷いて、輪郭(りんかく)の柔(やわ)らかな瓜実(うりざね)顔(がお)をその中に横たえている。
真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇(くちびる)の色は無論赤い。
とうてい死にそうには見えない。
しかし女は静かな声で、もう死にますと判然(はっきり)云った。
自分も確(たしか)にこれは死ぬなと思った。
そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗(のぞ)き込むようにして聞いて見た。
死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開(あ)けた。
大きな潤(うるおい)のある眼で、長い睫(まつげ)に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。
その真黒な眸(ひとみ)の奥に、自分の姿が鮮(あざやか)に浮かんでいる。


 自分は透(す)き徹(とお)るほど深く見えるこの黒眼の色沢(つや)を眺めて、これでも死ぬのかと思った。
それで、ねんごろに枕の傍(そば)へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。
すると女は黒い眼を眠そうに(みはっ)たまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。


 じゃ、私(わたし)の顔が見えるかいと一心(いっしん)に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。
自分は黙って、顔を枕から離した。
腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。


 しばらくして、女がまたこう云った。


「死んだら、埋(う)めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。

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