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【ブンゴウメール】夢十夜 (5/29)

(767字。目安の読了時間:2分)


ははあ怒ったなと云って笑った。
口惜(くや)しければ悟った証拠を持って来いと云ってぷいと向( むこう)をむいた。
怪(け)しからん。


 隣の広間の床に据(す)えてある置時計が次の刻(とき)を打つま でには、きっと悟って見せる。
悟った上で、今夜また入室(にゅうしつ)する。
そうして和尚の首と悟りと引替(ひきかえ)にしてやる。
悟らなければ、和尚の命が取れない。
どうしても悟らなければならない。
自分は侍である。


 もし悟れなければ自刃(じじん)する。
侍が辱(はずか)しめられて、生きている訳には行かない。
綺麗(きれい)に死んでしまう。


 こう考えた時、自分の手はまた思わず布団(ふとん)の下へ這入( はい)った。
そうして朱鞘(しゅざや)の短刀を引(ひ)き摺(ず)り出した。
ぐっと束(つか)を握って、赤い鞘を向へ払ったら、冷たい刃(は )が一度に暗い部屋で光った。
凄(すご)いものが手元から、すうすうと逃げて行くように思われ る。
そうして、ことごとく切先(きっさき)へ集まって、殺気(さっき )を一点に籠(こ)めている。
自分はこの鋭い刃が、無念にも針の頭のように縮(ちぢ)められて 、九寸(くすん)五分(ごぶ)の先へ来てやむをえず尖(とが) ってるのを見て、たちまちぐさりとやりたくなった。
身体(からだ)の血が右の手首の方へ流れて来て、握っている束が にちゃにちゃする。
唇(くちびる)が顫(ふる)えた。


 短刀を鞘へ収めて右脇へ引きつけておいて、それから全伽(ぜんが )を組んだ。
――趙州(じょうしゅう)曰く無(む)と。
無とは何だ。
糞坊主(くそぼうず)めとはがみをした。


 奥歯を強く咬(か)み締(し)めたので、鼻から熱い息が荒く出る 。

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