【ブンゴウメール】夢十夜 (6/29)
(754字。目安の読了時間:2分)
こめかみが釣って痛い。
眼は普通の倍も大きく開けてやった。
懸物が見える。
行灯が見える。
畳が見える。
和尚の薬缶頭がありありと見える。
鰐口を開いて嘲笑った声まで聞える。
怪しからん坊主だ。
どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。
悟ってやる。
無だ、無だと舌の根で念じた。
無だと云うのにやっぱり線香の香がした。
何だ線香のくせに。
自分はいきなり拳骨を固めて自分の頭をいやと云うほど擲った。
そうして奥歯をぎりぎりと噛んだ。
両腋から汗が出る。
背中が棒のようになった。
膝の接目が急に痛くなった。
膝が折れたってどうあるものかと思った。
けれども痛い。
苦しい。
無はなかなか出て来ない。
出て来ると思うとすぐ痛くなる。
腹が立つ。
無念になる。
非常に口惜しくなる。
涙がほろほろ出る。
ひと思に身を巨巌の上にぶつけて、骨も肉もめちゃめちゃに砕いて しまいたくなる。
それでも我慢してじっと坐っていた。
堪えがたいほど切ないものを胸に盛れて忍んでいた。
その切ないものが身体中の筋肉を下から持上げて、毛穴から外へ吹 き出よう吹き出ようと焦るけれども、どこも一面に塞がって、まる で出口がないような残刻極まる状態であった。
そのうちに頭が変になった。
行灯も蕪村の画も、畳も、違棚も有って無いような、無くって有る ように見えた。
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