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【ブンゴウメール】夢十夜 (10/29)

(637字。目安の読了時間:2分)


台は黒光りに光っている。
片隅には四角な膳を前に置いて爺(じい)さんが一人で酒を飲んで いる。
肴(さかな)は煮しめらしい。


 爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。
その上顔中つやつやして皺(しわ)と云うほどのものはどこにも見 当らない。
ただ白い髯(ひげ)をありたけ生やしているから年寄と云う事だけ はわかる。
自分は子供ながら、この爺さんの年はいくつなんだろうと思った。
ところへ裏の筧(かけひ)から手桶に水を汲(く)んで来た神さん が、前垂で手を拭きながら、

「御爺さんはいくつかね」と聞いた。
爺さんは頬張った煮〆にしめを呑(の)み込んで、

「いくつか忘れたよ」と澄ましていた。
神さんは拭いた手を、細い帯の間に挟んで横から爺さんの顔を見て 立っていた。
爺さんは茶碗のような大きなもので酒をぐいと飲んで、そうして、 ふうと長い息を白い髯の間から吹き出した。
すると神さんが、

「御爺さんの家はどこかね」と聞いた。
爺さんは長い息を途中で切って、

「臍(へそ)の奥だよ」と云った。
神さんは手を細い帯の間に突込んだまま、

「どこへ行くかね」とまた聞いた。
すると爺さんが、また茶碗のような大きなもので熱い酒をぐいと飲 んで前のような息をふうと吹いて、

「あっちへ行くよ」と云った。


「真直かい」と神さんが聞いた時、ふうと吹いた息が、障子を通り 越して柳の下を抜けて、河原の方へ真直に行った。

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