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【ブンゴウメール】夢十夜 (13/29)

(667字。目安の読了時間:2分)


そうして、みんな長い髯を生やしていた。
革の帯を締めて、それへ棒のような剣を釣るしていた。
弓は藤蔓の太いのをそのまま用いたように見えた。
漆も塗ってなければ磨きもかけてない。
極めて素樸なものであった。


 敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて 、酒甕を伏せたようなものの上に腰をかけていた。
その顔を見ると、鼻の上で、左右の眉が太く接続っている。
その頃髪剃と云うものは無論なかった。


 自分は虜だから、腰をかける訳に行かない。
草の上に胡坐(あぐら)をかいていた。
足には大きな藁沓(わらぐつ)を穿(は)いていた。
この時代の藁沓は深いものであった。
立つと膝頭まで来た。
その端の所は藁(わら)を少し編残して、房のように下げて、歩く とばらばら動くようにして、飾りとしていた。


 大将は篝火で自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。
これはその頃の習慣で、捕虜にはだれでも一応はこう聞いたもので ある。
生きると答えると降参した意味で、死ぬと云うと屈服しないと云う 事になる。
自分は一言死ぬと答えた。
大将は草の上に突いていた弓を向うへ抛(な)げて、腰に釣るした 棒のような剣をするりと抜きかけた。
それへ風に靡(なび)いた篝火が横から吹きつけた。
自分は右の手を楓(かえで)のように開いて、掌を大将の方へ向け て、眼の上へ差し上げた。
待てと云う相図である。
大将は太い剣をかちゃりと鞘(さや)に収めた。


 その頃でも恋はあった。

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