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【ブンゴウメール】夢十夜 (22/29)

(703字。目安の読了時間:2分)


それで御辞儀をして、どうも何とかですと云ったが、相手はどうし ても鏡の中へ出て来ない。


 すると白い着物を着た大きな男が、自分の後ろへ来て、鋏(はさみ )と櫛(くし)を持って自分の頭を眺め出した。
自分は薄い髭(ひげ)を捩(ひね)って、どうだろう物になるだろ うかと尋ねた。
白い男は、何にも云わずに、手に持った琥珀色の櫛(くし)で軽く 自分の頭を叩(たた)いた。


「さあ、頭もだが、どうだろう、物になるだろうか」と自分は白い 男に聞いた。
白い男はやはり何も答えずに、ちゃきちゃきと鋏を鳴らし始めた。


 鏡に映る影を一つ残らず見るつもりで眼をみはっていたが、鋏の鳴 るたんびに黒い毛が飛んで来るので、恐ろしくなって、やがて眼を 閉じた。
すると白い男が、こう云った。


「旦那は表の金魚売を御覧なすったか」

 自分は見ないと云った。
白い男はそれぎりで、しきりと鋏を鳴らしていた。
すると突然大きな声で危険と云ったものがある。
はっと眼を開けると、白い男の袖の下に自転車の輪が見えた。
人力の梶棒が見えた。
と思うと、白い男が両手で自分の頭を押えてうんと横へ向けた。
自転車と人力車はまるで見えなくなった。
鋏の音がちゃきちゃきする。


 やがて、白い男は自分の横へ廻って、耳の所を刈り始めた。
毛が前の方へ飛ばなくなったから、安心して眼を開けた。
粟餅や、餅やあ、餅や、と云う声がすぐ、そこでする。
小さい杵(きね)をわざと臼へあてて、拍子を取って餅を搗(つ) いている。
粟餅屋は子供の時に見たばかりだから、ちょっと様子が見たい。

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