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【ブンゴウメール】夢十夜 (23/29)

(666字。目安の読了時間:2分)


粟餅屋は子供の時に見たばかりだから、ちょっと様子が見たい。
けれども粟餅屋はけっして鏡の中に出て来ない。
ただ餅を搗く音だけする。


 自分はあるたけの視力で鏡の角を覗(のぞ)き込むようにして見た 。
すると帳場格子のうちに、いつの間にか一人の女が坐っている。
色の浅黒い眉毛の濃い大柄な女で、髪を銀杏返しに結って、黒繻子 の半襟のかかった素袷で、立膝のまま、札の勘定をしている。
札は十円札らしい。
女は長い睫(まつげ)を伏せて薄い唇を結んで一生懸命に、札の数 を読んでいるが、その読み方がいかにも早い。
しかも札の数はどこまで行っても尽きる様子がない。
膝の上に乗っているのはたかだか百枚ぐらいだが、その百枚がいつ まで勘定しても百枚である。


 自分は茫然としてこの女の顔と十円札を見つめていた。
すると耳の元で白い男が大きな声で「洗いましょう」と云った。
ちょうどうまい折だから、椅子から立ち上がるや否や、帳場格子の 方をふり返って見た。
けれども格子のうちには女も札も何にも見えなかった。


 代を払って表へ出ると、門口の左側に、小判なりの桶(おけ)が五 つばかり並べてあって、その中に赤い金魚や、斑入の金魚や、痩せ た金魚や、肥った金魚がたくさん入れてあった。
そうして金魚売がその後にいた。
金魚売は自分の前に並べた金魚を見つめたまま、頬杖(ほおづえ) を突いて、じっとしている。
騒がしい往来の活動にはほとんど心を留めていない。
自分はしばらく立ってこの金魚売を眺めていた。

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