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【ブンゴウメール】夢十夜 (24/29)

(652字。目安の読了時間:2分)


自分はしばらく立ってこの金魚売を眺めていた。
けれども自分が眺めている間、金魚売はちっとも動かなかった。

 

第九夜


 世の中が何となくざわつき始めた。
今にも戦争が起りそうに見える。
焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷の周囲を暴れ廻(まわ)る と、それを夜昼となく足軽共が犇(ひしめ)きながら追かけている ような心持がする。
それでいて家のうちは森として静かである。


 家には若い母と三つになる子供がいる。
父はどこかへ行った。
父がどこかへ行ったのは、月の出ていない夜中であった。
床の上で草鞋を穿(は)いて、黒い頭巾を被って、勝手口から出て 行った。
その時母の持っていた雪洞の灯が暗い闇に細長く射して、生垣の手 前にある古い檜(ひのき)を照らした。


 父はそれきり帰って来なかった。
母は毎日三つになる子供に「御父様は」と聞いている。
子供は何とも云わなかった。
しばらくしてから「あっち」と答えるようになった。
母が「いつ御帰り」と聞いてもやはり「あっち」と答えて笑ってい た。
その時は母も笑った。
そうして「今に御帰り」と云う言葉を何遍となく繰返して教えた。
けれども子供は「今に」だけを覚えたのみである。
時々は「御父様はどこ」と聞かれて「今に」と答える事もあった。


 夜になって、四隣が静まると、母は帯を締め直して、鮫鞘(さめざ や)の短刀を帯の間へ差して、子供を細帯で背中へ背負って、 そっと潜りから出て行く。

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