【ブンゴウメール】夢十夜 (25/29)
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夜になって、四隣が静まると、母は帯を締め直して、鮫鞘(さめざ や)の短刀を帯の間へ差して、子供を細帯で背中へ背負って、 そっと潜りから出て行く。
母はいつでも草履を穿いていた。
子供はこの草履の音を聞きながら母の背中で寝てしまう事もあった 。
土塀の続いている屋敷町を西へ下って、だらだら坂を降り尽くすと 、大きな銀杏がある。
この銀杏を目標に右に切れると、一丁ばかり奥に石の鳥居がある。
片側は田圃で、片側は熊笹ばかりの中を鳥居まで来て、それを潜り 抜けると、暗い杉の木立になる。
それから二十間ばかり敷石伝いに突き当ると、古い拝殿の階段の下 に出る。
鼠色に洗い出された賽銭箱の上に、大きな鈴の紐(ひも)がぶら下 がって昼間見ると、その鈴の傍に八幡宮と云う額が懸っている。
八の字が、鳩(はと)が二羽向いあったような書体にできているの が面白い。
そのほかにもいろいろの額がある。
たいていは家中のものの射抜いた金的を、射抜いたものの名前に添 えたのが多い。
たまには太刀を納めたのもある。
鳥居を潜ると杉の梢(こずえ)でいつでも梟(ふくろう)が鳴いて いる。
そうして、冷飯草履の音がぴちゃぴちゃする。
それが拝殿の前でやむと、母はまず鈴を鳴らしておいて、すぐにし ゃがんで柏手を打つ。
たいていはこの時梟が急に鳴かなくなる。
それから母は一心不乱に夫の無事を祈る。
母の考えでは、夫が侍であるから、弓矢の神の八幡へ、こうやって 是非ない願をかけたら、よもや聴かれぬ道理はなかろうと一図に思 いつめている。
子供はよくこの鈴の音で眼を覚まして、四辺を見ると真暗だものだ から、急に背中で泣き出す事がある。
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