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【ブンゴウメール】河童 (19/31)

(1405字。目安の読了時間:3分)

 

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 成すことは成し得ることであり、成し得ることは成すことである。
畢竟(ひっきょう)我々の生活はこういう循環論法を脱することは できない。
――すなわち不合理に終始している。


        ×

 ボオドレエルは白痴になった後、彼の人生観をたった一語に、―― 女陰の一語に表白した。
しかし彼自身を語るものは必ずしもこう言ったことではない。
むしろ彼の天才に、――彼の生活を維持するに足る詩的天才に信頼 したために胃袋の一語を忘れたことである。
(この章にもやはりクラバックの爪の痕は残っていました。)

        ×

 もし理性に終始するとすれば、我々は当然我々自身の存在を否定し なければならぬ。
理性を神にしたヴォルテエルの幸福に一生をおわったのはすなわち 人間の河童よりも進化していないことを示すものである。

 

十二


 ある割合に寒い午後です。
僕は「阿呆(あほう)の言葉」を読み飽きましたから、哲学者のマ ッグを尋ねに出かけました。
するとある寂しい町の角に蚊のようにやせた河童が一匹、ぼんやり 壁によりかかっていました。
しかもそれは紛れもない、いつか僕の万年筆を盗んでいった河童な のです。
僕はしめたと思いましたから、ちょうどそこへ通りかかった、たく ましい巡査を呼びとめました。


「ちょっとあの河童を取り調べてください。あの河童はちょうど一 月ばかり前にわたしの万年筆を盗んだのですから。」

 巡査は右手の棒をあげ、(この国の巡査は剣の代わりに水松の棒を 持っているのです。)「おい、君」とその河童へ声をかけました。
僕はあるいはその河童は逃げ出しはしないかと思っていました。
が、存外落ち着き払って巡査の前へ歩み寄りました。
のみならず腕を組んだまま、いかにも傲然と僕の顔や巡査の顔をじ ろじろ見ているのです。
しかし巡査は怒りもせず、腹の袋から手帳を出してさっそく尋問に とりかかりました。


「お前の名は?」

「グルック。」

「職業は?」

「つい二三日前までは郵便配達夫をしていました。」

「よろしい。そこでこの人の申し立てによれば、君はこの人の万年 筆を盗んでいったということだがね。」

「ええ、一月ばかり前に盗みました。」

「なんのために?」

「子どもの玩具にしようと思ったのです。」

「その子どもは?」

 巡査ははじめて相手の河童へ鋭い目を注ぎました。


「一週間前に死んでしまいました。」

「死亡証明書を持っているかね?」

 やせた河童は腹の袋から一枚の紙をとり出しました。
巡査はその紙へ目を通すと、急ににやにや笑いながら、相手の肩を たたきました。


「よろしい。どうも御苦労だったね。」

 僕は呆気にとられたまま、巡査の顔をながめていました。
しかもそのうちにやせた河童は何かぶつぶつつぶやきながら、僕ら を後ろにして行ってしまうのです。
僕はやっと気をとり直し、こう巡査に尋ねてみました。


「どうしてあの河童をつかまえないのです?」

「あの河童は無罪ですよ。」

「しかし僕の万年筆を盗んだのは……」

「子どもの玩具にするためだったのでしょう。

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