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【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (2/31)

(637字。目安の読了時間:2分) 蛤(はまぐり)の息の中に美しい龍宮城の浮んでいる、あの古風な絵を想像していた私は、本物の蜃気楼を見て、膏汗のにじむ様な、恐怖に近い驚きに撃たれた。  魚津の浜の松並木に豆粒の様な人間がウジャウジャと集まって、息を殺して、眼界一杯の大空と海面とを眺めていた。 私はあんな静かな、唖の様にだまっている海を見たことがない。 日本海は荒海と思い込んでいた私には、それもひどく意外であった。 その海は、灰色で、全く小波一つなく、無限の彼方にまで打続く沼かと思われた。 そして、太平洋の海の様に、水平線はなくて、海と空とは、同じ灰色に溶け合い、厚さの知れぬ靄(もや)に覆いつくされた感じであった。 空だとばかり思っていた、上部の靄の中を、案外にもそこが海面であって、フワフワと幽霊の様な、大きな白帆が滑って行ったりした。  蜃気楼とは、乳色のフィルムの表面に墨汁をたらして、それが自然にジワジワとにじんで行くのを、途方もなく巨大な映画にして、大空に映し出した様なものであった。  遙(はる)かな能登半島の森林が、喰違った大気の変形レンズを通して、すぐ目の前の大空に、焦点のよく合わぬ顕微鏡の下の黒い虫みたいに、曖昧に、しかも馬鹿馬鹿しく拡大されて、見る者の頭上におしかぶさって来るのであった。 それは、妙な形の黒雲と似ていたけれど、黒雲なればその所在がハッキリ分っているに反し、蜃気楼は、不思議にも、それと見る者との距離が非常に曖昧なのだ。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 今なら簡単に100円分のポイントがもらえるキャンペーン中!楽天公式アプリ ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/sUtbi5 ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*