ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (3/31)

(672字。目安の読了時間:2分) それは、妙な形の黒雲と似ていたけれど、黒雲なればその所在がハッキリ分っているに反し、蜃気楼は、不思議にも、それと見る者との距離が非常に曖昧なのだ。 遠くの海上に漂う大入道の様でもあり、ともすれば、眼前一尺に迫る異形の靄かと見え、はては、見る者の角膜の表面に、ポッツリと浮んだ、一点の曇りの様にさえ感じられた。 この距離の曖昧さが、蜃気楼に、想像以上の不気味な気違いめいた感じを与えるのだ。  曖昧な形の、真黒な巨大な三角形が、塔の様に積重なって行ったり、またたく間にくずれたり、横に延びて長い汽車の様に走ったり、それが幾つかにくずれ、立並ぶ檜(ひのき)の梢(こずえ)と見えたり、じっと動かぬ様でいながら、いつとはなく、全く違った形に化けて行った。  蜃気楼の魔力が、人間を気違いにするものであったなら、恐らく私は、少くとも帰り途の汽車の中までは、その魔力を逃れることが出来なかったのであろう。 二時間の余も立ち尽して、大空の妖異を眺めていた私は、その夕方魚津を立って、汽車の中に一夜を過ごすまで、全く日常と異った気持でいたことは確である。 若しかしたら、それは通り魔の様に、人間の心をかすめ冒す所の、一時的狂気の類ででもあったであろうか。  魚津の駅から上野への汽車に乗ったのは、夕方の六時頃であった。 不思議な偶然であろうか、あの辺の汽車はいつでもそうなのか、私の乗った二等車は、教会堂の様にガランとしていて、私の外にたった一人の先客が、向うの隅のクッションに蹲(うずくま)っているばかりであった。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] Facebookを使って、みんなに知られず婚活ができる神アプリ!毎月4000人以上に恋人ができている実績あり。まずは試してみて! ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/kvdRBG ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*