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【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (4/31)

(699字。目安の読了時間:2分) 不思議な偶然であろうか、あの辺の汽車はいつでもそうなのか、私の乗った二等車は、教会堂の様にガランとしていて、私の外にたった一人の先客が、向うの隅のクッションに蹲(うずくま)っているばかりであった。  汽車は淋(さび)しい海岸の、けわしい崕(がけ)や砂浜の上を、単調な機械の音を響かせて、際しもなく走っている。 沼の様な海上の、靄の奥深く、黒血の色の夕焼が、ボンヤリと感じられた。 異様に大きく見える白帆が、その中を、夢の様に滑っていた。 少しも風のない、むしむしする日であったから、所々開かれた汽車の窓から、進行につれて忍び込むそよ風も、幽霊の様に尻切れとんぼであった。 沢山の短いトンネルと雪除けの柱の列が、広漠たる灰色の空と海とを、縞目に区切って通り過ぎた。  親不知の断崖を通過する頃、車内の電燈と空の明るさとが同じに感じられた程、夕闇が迫って来た。 丁度その時分向うの隅のたった一人の同乗者が、突然立上って、クッションの上に大きな黒繻子の風呂敷を広げ、窓に立てかけてあった、二尺に三尺程の、扁平な荷物を、その中へ包み始めた。 それが私に何とやら奇妙な感じを与えたのである。  その扁平なものは、多分額に相違ないのだが、それの表側の方を、何か特別の意味でもあるらしく、窓ガラスに向けて立てかけてあった。 一度風呂敷に包んであったものを、態々取出して、そんな風に外に向けて立てかけたものとしか考えられなかった。 それに、彼が再び包む時にチラと見た所によると、額の表面に描かれた極彩色の絵が、妙に生々しく、何となく世の常ならず見えたことであった。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 忙しいあなたも、耳は意外とヒマしてる!耳で読書できる便利アプリ。好みの一冊があるか、ぜひ調べてみよう! ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/xL67HL ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*