【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (14/31)
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すると、それはやっぱり淋しい夜の汽車の中であって、押絵の額も、それをささげた老人の姿も、元のままで、窓の外は真暗だし、単調な車輪の響も、変りなく聞えていた。
悪夢から醒めた気持であった。
「あなた様は、不思議相な顔をしておいでなさいますね」
老人は額を、元の窓の所へ立てかけて、席につくと、私にもその向う側へ坐る様に、手真似をしながら、私の顔を見つめて、こんなことを云った。
「私の頭が、どうかしている様です。いやに蒸しますね」
私はてれ隠しみたいな挨拶をした。
すると老人は、猫背になって、顔をぐっと私の方へ近寄せ、膝の上で細長い指を合図でもする様に、ヘラヘラと動かしながら、低い低い囁(ささや)き声になって、
「あれらは、生きて居りましたろう」
と云った。
そして、さも一大事を打開けるといった調子で、一層猫背になって、ギラギラした目をまん丸に見開いて、私の顔を穴のあく程見つめながら、こんなことを囁くのであった。
「あなたは、あれらの、本当の身の上話を聞き度いとはおぼしめしませんかね」
私は汽車の動揺と、車輪の響の為に、老人の低い、呟(つぶや)く様な声を、聞き間違えたのではないかと思った。
「身の上話とおっしゃいましたか」
「身の上話でございますよ」老人はやっぱり低い声で答えた。
「殊に、一方の、白髪の老人の身の上話をでございますよ」
「若い時分からのですか」
私も、その晩は、何故か妙に調子はずれな物の云い方をした。
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