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【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (14/31)

(670字。目安の読了時間:2分) すると、それはやっぱり淋しい夜の汽車の中であって、押絵の額も、それをささげた老人の姿も、元のままで、窓の外は真暗だし、単調な車輪の響も、変りなく聞えていた。 悪夢から醒めた気持であった。 「あなた様は、不思議相な顔をしておいでなさいますね」  老人は額を、元の窓の所へ立てかけて、席につくと、私にもその向う側へ坐る様に、手真似をしながら、私の顔を見つめて、こんなことを云った。 「私の頭が、どうかしている様です。いやに蒸しますね」  私はてれ隠しみたいな挨拶をした。 すると老人は、猫背になって、顔をぐっと私の方へ近寄せ、膝の上で細長い指を合図でもする様に、ヘラヘラと動かしながら、低い低い囁(ささや)き声になって、 「あれらは、生きて居りましたろう」  と云った。 そして、さも一大事を打開けるといった調子で、一層猫背になって、ギラギラした目をまん丸に見開いて、私の顔を穴のあく程見つめながら、こんなことを囁くのであった。 「あなたは、あれらの、本当の身の上話を聞き度いとはおぼしめしませんかね」  私は汽車の動揺と、車輪の響の為に、老人の低い、呟(つぶや)く様な声を、聞き間違えたのではないかと思った。 「身の上話とおっしゃいましたか」 「身の上話でございますよ」老人はやっぱり低い声で答えた。 「殊に、一方の、白髪の老人の身の上話をでございますよ」 「若い時分からのですか」  私も、その晩は、何故か妙に調子はずれな物の云い方をした。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 今なら簡単に100円分のポイントがもらえるキャンペーン中!楽天公式アプリ ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/sUtbi5 ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*