【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (15/30)
(573字。目安の読了時間:2分)
二階の縁の障子をあけると、その石榴の木と井戸が真下に見えた。
井戸水は塩分を多分に含んで、顔を洗うと、ちょっと舌が塩っぱかった。
水は二階のはんど甕(がめ)の中へ、二日分位汲み入れた。
縁側には、七輪や、馬穴(バケツ)や、ゆきひらや、鮑(あわび)の植木鉢や、座敷は六畳で、押入れもなければ床の間もない。
これが私達三人の落ちついた二階借りの部屋の風景である。
朝になると、借りた蒲団の上に白い風呂敷を掛けた。
階下は、五十位の夫婦者で、古ぼけた俥(くるま)をいつも二台ほど土間に置いていた。
おじさんが、俥をひっぱった姿は見た事はないが、誰かに貸すのででもあろう、時々、一台の俥が消える時がある。
おばさんは毎日、石榴の木の見える縁側で、白い昆布に辻占を巻いて、帯を結ぶ内職をしていた。
ここの台所は、いつも落莫として食物らしい匂いをかいだ事がない。
井戸は、囲いが浅いので、よく猫や犬が墜ちた。
そのたび、おばさんは、禿(はげ)の多い鏡を上から照らして、深い井戸の中を覗いた。
「尾の道の町に、何か力があっとじゃろ、大阪までも行かいでよかった」
「大阪まで行っとれば、ほんのこて今頃は苦労しよっとじゃろ」
この頃、父も母も、少し肥えたかのように、私の眼にうつった。
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