【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (30/30)
(513字。目安の読了時間:2分)
「オンバラジャア、ユウセイソワカ」私は、鉄の棒を握って、何となく空に祈った。
淋しくなった。
裏側の水上署でカラカラ鈴の鳴る音が聞える。
私は裏側へ廻(まわ)って、水色のペンキ塗りの歪んだ窓へよじ登って下を覗いてみた。
電気が煌々(こうこう)とついていた。
部屋の隅に母が鼠(ねずみ)よりも小さく私の眼に写った。
父が、その母の前で、巡査にぴしぴしビンタを殴られていた。
「さあ、唄うてみんか!」
父は、奇妙な声で、風琴を鳴らしながら、
「二瓶つければ雪の肌」と、唄をうたった。
「もっと大きな声で唄わんかッ!」
「ハッハッ……うどん粉つけて、雪の肌いなりゃア、安かものじゃ」
悲しさがこみあげて来た。
父は闇雲に、巡査に、ビンタをぶたれていた。
「馬鹿たれ! 馬鹿たれ!」
私は猿のように声をあげると、海岸の方へ走って行った。
「まさこヨイ!」と呼ぶ、母の声を聞いたが、私の耳底には、いつまでも何か遠く、歯車のようなものがギリギリ鳴っていた。
(昭和六年四月)
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底本:「ちくま日本文学全集 林芙美子」筑摩書房
1992(平成4)年12月18日第1刷発行
底本の親本:「現代日本文学大系 69」筑摩書房
1969(昭和44)年
初出:「改造」
1931(昭和6)年4月
入力:土屋隆
校正:林幸雄
2006年9月21日作成
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