【ブンゴウメール】断食芸人 (31/31)
(389字。目安の読了時間:1分)
あんなに長いこと荒れ果てていた檻のなかにこの野獣が跳び廻っているのをながめることは、どんなに鈍感な人間にとってもはっきり感じられる気ばらしであった。
豹には何一つ不自由なものはなかった。
豹がうまいと思う食べものは、番人たちがたいして考えずにどんどん運んでいった。
豹は自由がないことを全然残念がってはいないように見えた。
あらゆる必要なものをほとんど破裂せんばかりに身にそなえたこの高貴な身体は、自由さえも身につけて歩き廻っているように見えた。
歯なみのどこかに自由が隠れているように見えるのだった。
生きるよろこびが豹の喉もとからひどく強烈な炎熱をもって吐き出されてくるので、見物人たちがそれに耐えることは容易ではないほどだった。
だが、見物人たちはそれにじっと耐えて、檻のまわりにひしめきより、全然そこを立ち去ろうとはしなかった。
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底本:「世界文学大系58 カフカ」筑摩書房
1960(昭和35)年4月10日発行
入力:kompass
校正:青空文庫
2010年11月28日作成
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