【ブンゴウメール】文字禍 (15/15)
(482字。目安の読了時間:1分)
しかも、これに気付いている者はほとんど無い。
今にして文字への盲目的崇拝を改めずんば、後に臍(ほぞ)を噬(か)むとも及ばぬであろう云々(うんぬん)。
文字の霊が、この讒謗者をただで置く訳が無い。
ナブ・アヘ・エリバの報告は、いたく大王のご機嫌を損じた。
ナブウ神の熱烈な讃仰者で当時第一流の文化人たる大王にしてみれば、これは当然のことである。
老博士は即日謹慎を命ぜられた。
大王の幼時からの師傅たるナブ・アヘ・エリバでなかったら、恐らく、生きながらの皮剥に処せられたであろう。
思わぬご不興に愕然とした博士は、直ちに、これが奸譎(かんけつ)な文字の霊の復讐であることを悟った。
しかし、まだこれだけではなかった。
数日後ニネヴェ・アルベラの地方を襲った大地震の時、博士は、たまたま自家の書庫の中にいた。
彼の家は古かったので、壁が崩れ書架が倒れた。
夥しい書籍が――数百枚の重い粘土板が、文字共の凄まじい呪の声と共にこの讒謗者の上に落ちかかり、彼は無慙にも圧死した。
(昭和十七年二月)
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底本:「ちくま日本文学全集 中島敦」」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年7月20日第1刷発行
底本の親本:「中島敦全集 第一巻」筑摩書房
1987(昭和62)年9月
初出:「文学界」
1942(昭和17)年2月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※初出時の表題は「古譚」です。
入力:野口英司
校正:野口英司、富田倫生
1997年11月17日公開
2014年1月17日修正
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