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【ブンゴウメール】オシャベリ姫 (21/31)

(992字。目安の読了時間:2分)

そのためにだんだん嘘をまぜて話すようになりまして、とうとう嘘の上手なものがオシャベリの上手ということになりました。そうしてこの国中の人々は毎日毎日嘘のつきくらばかりして、本当のことは一つも云わないようになってしまったのです」

「まあ……それじゃみんな困ったでしょうね」

「エエ、ほんとにみんな困ってしまいました。誰の云うことも本当にされないからです。その中にこの国とよその国と戦争がはじまりましたが、いくら敵が攻めて来たと云っても誰も本当にしません。戦争の支度もしなかったものですから、この国の人は滅茶滅茶に敗けて、もうすこしで国中がすっかり敵に取られてしまうところでした」

「まあ、大変ですね。それからどうしました」

 と姫は心配そうに尋ねました。

「私の先祖は代々この国の王でしたが、その時の王はこれを見て、国中の人々に『これから口を利く奴は殺してしまうぞ。鳥でも獣でも虫でも、声を出すものは皆、殺してしまえ』と云いつけました」

「まあ恐いこと」

「けれどもそのために国中の人々は一人も嘘をつかなくなったばかりでなく、何の音もきこえぬほど静かになりましたので、敵の攻めて来る音や号令の声が何里も先からきこえるようになりました。その時にこちらの兵隊はみんな鉄の鎧を着て、短刀を持って、王が指さす方へ黙って進んで行きまして、黙って敵に斬りかかって行きましたので、今度はあべこべに敵が滅茶滅茶に負けて逃げて行ってしまいました」

「まあ……よかったこと」

 ときいていた姫はやっと安心をしました。

 若い人はなおもお話をつづけました。

「それから後、この国中の人々は一人も口を利かなくなりました。しまいには只ぽかんと口を開いていても、役人が遠くから見つけて、物を云っていたのと間ちがえて殺したりしますので、国中の人は怖がって、ものを喰べるのにも、口を開かないように牛乳やソップなぞいう汁を鼻から吸うようになりました。そうして何千年か暮しているうちに、この国の人は口が役に立たなくなったので、だんだん小さくなって、とうとう今のようにまったくなくなってしまいました。けれども全くなくなると妙な顔に見えるので、この国の人は鼻の下の、昔口のあったところに赤い唇の絵を書いておくのです」

「それじゃ、あなたはどうして口がおありになるのですか」

 と姫は尋ねました。

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