【ブンゴウメール】オシャベリ姫 (23/31)
(914字。目安の読了時間:2分)
「クチナシ姫は、何の気もなしにその国へズンズン這入って行きますと、その国の人がだれもかれも面白そうにお話をしているのにビックリしました。
クチナシ姫はそのお話をしているようすと、そのことばをおもしろがって、次から次へときいて行くうちに、すっかりおぼえてしまいました。そうして自分も話してみたくなりましたが、口が利けないのでどうも出来ません。
それから歌に合わせて踊ったり音楽をやったりしているのを見て、もうたまらないほど歌がうたいたくなりましたけれども、やっぱり口を利くことが出来ません。
そのうちに大勢の子供がクチナシ姫を見つけますと、
『ヤア、口なしの女の子がいる』
というので大勢押しかけて来て、しまいには、
『片輪だ片輪だ。口なしだ口なしだ』
と云いながら、石や木の片をなげつけたり、ぶったり、蹴ったりしはじめました。
クチナシ姫はこの国の人の乱暴なのに驚いて一生懸命逃げましたが、やがてとある山の中に逃げこみますと、子供は一人減り二人減りしてとうとう見えなくなりまして、姫はたった一人大きな池のふちへ来ました。
その池の水に姫は何気なく顔をうつして見ると、どうでしょう。
せっかくお母様に書いていただいた可愛らしい口が、いつの間にか消えて無くなっています。
口なし姫はお池の水にうつった自分の顔を見て泣き出しました。
『ああ、あたしにはどうして口が無いのでしょう。外の国の人間はどうしてあんなに口を授かって、歌ったり舞ったりすることが出来るのであろう。ああ……口が欲しい、口が欲しい』
とひとりで涙を流しておりますと、そのうちにどこからともなくクチナシの花のにおいがして来ました。
口なし姫はそのにおいを便りにだんだんやって来ますと、とうとう自分の国へ帰ることが出来ました。そうして大騒ぎをして探していた両親や家来に迎えられて無事にお城へ帰って来ました。
けれどもそれからのち、口なし姫はクチナシの花を見ると涙を流しました。クチナシのにおいを嗅ぐと、いつも悲しそうにため息をしました。
『ああ。あの花さえ無ければ、私はあんなにほかの国へ行かなくともよかったのに。
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