桜の森の満開の下(10/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(605字。目安の読了時間:2分)
見当もつかないのです。
この生活、この幸福に足りないものがあるという事実に就て思い当るものがない。
彼はただ女の怨じる風情の切なさに当惑し、それをどのように処置してよいか目当に就て何の事実も知らないので、もどかしさに苦しみました。
今迄には都からの旅人を何人殺したか知れません。
都からの旅人は金持で所持品も豪華ですから、都は彼のよい鴨で、せっかく所持品を奪ってみても中身がつまらなかったりするとチェッこの田舎者め、とか土百姓めとか罵ったもので、つまり彼は都に就てはそれだけが知識の全部で、豪華な所持品をもつ人達のいるところであり、彼はそれをまきあげるという考え以外に余念はありませんでした。
都の空がどっちの方角だということすらも、考えてみる必要がなかったのです。
女は櫛だの笄だの簪だの紅だのを大事にしました。
彼が泥の手や山の獣の血にぬれた手でかすかに着物にふれただけでも女は彼を叱りました。
まるで着物が女のいのちであるように、そしてそれをまもることが自分のつとめであるように、身の廻りを清潔にさせ、家の手入れを命じます。
その着物は一枚の小袖と細紐だけでは事足りず、何枚かの着物といくつもの紐と、そしてその紐は妙な形にむすばれ不必要に垂れ流されて、色々の飾り物をつけたすことによって一つの姿が完成されて行くのでした。
男は目を見はりました。
そして嘆声をもらしました。
彼は納得させられたのです。
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