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桜の森の満開の下(13/30) - ブンゴウメール

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(584字。目安の読了時間:2分)

どんな過去を思いだしても、裏切られ傷けられる不安がありません。

それに気附くと、彼は常に愉快で又誇りやかでした。

彼は女の美に対して自分の強さを対比しました。

そして強さの自覚の上で多少の苦手と見られるものは猪だけでした。

その猪も実際はさして怖るべき敵でもないので、彼はゆとりがありました。

「都には牙のある人間がいるかい」

「弓をもったサムライがいるよ」

「ハッハッハ。弓なら俺は谷の向うの雀の子でも落すのだからな。都には刀が折れてしまうような皮の堅い人間はいないだろう」

「鎧をきたサムライがいるよ」

「鎧は刀が折れるのか」

「折れるよ」

「俺は熊も猪も組み伏せてしまうのだからな」

「お前が本当に強い男なら、私を都へ連れて行っておくれ。お前の力で、私の欲しい物、都の粋を私の身の廻りへ飾っておくれ。そして私にシンから楽しい思いを授けてくれることができるなら、お前は本当に強い男なのさ」

「わけのないことだ」

 男は都へ行くことに心をきめました。

彼は都にありとある櫛や笄や簪や着物や鏡や紅を三日三晩とたたないうちに女の廻りへ積みあげてみせるつもりでした。

何の気がかりもありません。

一つだけ気にかかることは、まったく都に関係のない別なことでした。

 それは桜の森でした。

 二日か三日の後に森の満開が訪れようとしていました。

今年こそ、彼は決意していました。

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