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桜の森の満開の下(22/30) - ブンゴウメール

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(613字。目安の読了時間:2分)

その鳥は疲れません。

常に爽快に風をきり、スイスイと小気味よく無限に飛びつづけているのでした。

 けれども彼はただの鳥でした。

枝から枝を飛び廻り、たまに谷を渉るぐらいがせいぜいで、枝にとまってうたたねしている梟にも似ていました。

彼は敏捷でした。

全身がよく動き、よく歩き、動作は生き生きしていました。

彼の心は然し尻の重たい鳥なのでした。

彼は無限に直線に飛ぶことなどは思いもよらないのです。

 男は山の上から都の空を眺めています。

その空を一羽の鳥が直線に飛んで行きます。

空は昼から夜になり、夜から昼になり、無限の明暗がくりかえしつづきます。

その涯に何もなくいつまでたってもただ無限の明暗があるだけ、男は無限を事実に於て納得することができません。

その先の日、その先の日、その又先の日、明暗の無限のくりかえしを考えます。

彼の頭は割れそうになりました。

それは考えの疲れでなしに、考えの苦しさのためでした。

 家へ帰ると、女はいつものように首遊びに耽っていました。

彼の姿を見ると、女は待ち構えていたのでした。

「今夜は白拍子の首を持ってきておくれ。とびきり美しい白拍子の首だよ。舞いを舞わせるのだから。私が今様を唄ってきかせてあげるよ」

 男はさっき山の上から見つめていた無限の明暗を思いだそうとしました。

この部屋があのいつまでも涯のない無限の明暗のくりかえしの空の筈ですが、それはもう思いだすことができません。

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