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犬を連れた奥さん(13/30) - ブンゴウメール

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(734字。目安の読了時間:2分)

まったくの有閑三昧、誰かに見つかりはしまいかと四辺を見まわしながらびくびくものでする昼日中の接吻、炎暑、海の匂い、絶えず眼さきにちらちらしている遊惰でおしゃれな腹いっぱい満ち足りた連中、そうしたもののおかげで彼はまるでがらり別人になった観があった。

彼はアンナ・セルゲーヴナに向かって、君はじつに美人だ、じつに魅惑的なひとだなどと言い言いし、燃えさかる情熱にいても立ってもおられず、彼女の傍を一歩も離れなかったが、いっぽう彼女の方はともすれば物思いに沈みがちで、あなたはわたしを尊敬してはいないのだ、ちっともわたしを愛してなんぞいないのだ、わたしをただ下等な女としか見ていないのだ、そうならそうときれいに白状なさいと、のべつにせがみ立てるのだった。

ほとんど毎晩のように、少し遅目に二人はどこか町の外へ、オレアンダや滝の方へ馬車で出掛けて行ったが、そうした散歩は上乗の首尾で、印象はその都度きまって素晴らしい崇高なものだった。

 彼らは良人が来ることとばかり思っていた。

ところが彼から手紙が来て、眼が悪くなったことを報らせ、後生だから妻に早く帰ってきてもらいたいと言ってよこした。

アンナ・セルゲーヴナはそわそわし始めた。

「わたしが行ってしまうのはいい事だわ」と、彼女はグーロフに言うのだった。

「これが運命というものなのよ」

 彼女は馬車でたち、彼も一緒に送って行った。

一日がかりの道のりだった。

やがて彼女が急行列車の車室に席を占めて、二度目のベルが鳴ったとき、彼女はこう言うのだった。

――

「さあ、もう一度お顔をよく見せて。……もう一ぺんよく見せて。そら、こうして」

 彼女は泣きこそしなかったが、まるで病人のように沈んだ様子で、顔をわななかせていた。

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