猫町(9/16) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(735字。目安の読了時間:2分)
日本の諸国にあるこの種の部落的タブーは、おそらく風俗習慣を異にした外国の移住民や帰化人やを、先祖の氏神にもつ者の子孫であろう。
あるいは多分、もっと確実な推測として、切支丹宗徒の隠れた集合的部落であったのだろう。
しかし宇宙の間には、人間の知らない数々の秘密がある。
ホレーシオが言うように、理智は何事をも知りはしない。
理智はすべてを常識化し、神話に通俗の解説をする。
しかも宇宙の隠れた意味は、常に通俗以上である。
だからすべての哲学者は、彼らの窮理の最後に来て、いつも詩人の前に兜を脱いでる。
詩人の直覚する超常識の宇宙だけが、真のメタフィジックの実在なのだ。
こうした思惟に耽りながら、私はひとり秋の山道を歩いていた。
その細い山道は、径路に沿うて林の奥へ消えて行った。
目的地への道標として、私が唯一のたよりにしていた汽車の軌道は、もはや何所にも見えなくなった。
私は道をなくしたのだ。
「迷い子!」
瞑想から醒めた時に、私の心に浮んだのは、この心細い言葉であった。
私は急に不安になり、道を探そうとしてあわて出した。
私は後へ引返して、逆に最初の道へ戻ろうとした。
そして一層地理を失い、多岐に別れた迷路の中へ、ぬきさしならず入ってしまった。
山は次第に深くなり、小径は荊棘の中に消えてしまった。
空しい時間が経過して行き、一人の樵夫にも逢わなかった。
私はだんだん不安になり、犬のように焦燥しながら、道を嗅ぎ出そうとして歩き廻った。
そして最後に、漸く人馬の足跡のはっきりついた、一つの細い山道を発見した。
私はその足跡に注意しながら、次第に麓の方へ下って行った。
どっちの麓へ降りようとも、人家のある所へ着きさえすれば、とにかく安心ができるのである。
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