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猫町(10/16) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(726字。目安の読了時間:2分)

どっちの麓へ降りようとも、人家のある所へ着きさえすれば、とにかく安心ができるのである。

 幾時間かの後、私は麓へ到着した。

そして全く、思いがけない意外の人間世界を発見した。

そこには貧しい農家の代りに、繁華な美しい町があった。

かつて私の或る知人が、シベリヤ鉄道の旅行について話したことは、あの満目荒寥たる無人の曠野を、汽車で幾日も幾日も走った後、漸く停車した沿線の一小駅が、世にも賑わしく繁華な都会に見えるということだった。

私の場合の印象もまた、おそらくはそれに類した驚きだった。

麓の低い平地へかけて、無数の建築の家屋が並び、塔や高楼が日に輝やいていた。

こんな辺鄙な山の中に、こんな立派な大都会が存在しようとは、容易に信じられないほどであった。

 私は幻燈を見るような思いをしながら、次第に町の方へ近付いて行った。

そしてとうとう、自分でその幻燈の中へ這入って行った。

私は町の或る狭い横丁から、胎内めぐりのような路を通って、繁華な大通の中央へ出た。

そこで目に映じた市街の印象は、非常に特殊な珍しいものであった。

すべての軒並の商店や建築物は、美術的に変った風情で意匠され、かつ町全体としての集合美を構成していた。

しかもそれは意識的にしたのでなく、偶然の結果からして、年代の錆がついて出来てるのだった。

それは古雅で奥床しく、町の古い過去の歴史と、住民の長い記憶を物語っていた。

町幅は概して狭く、大通でさえも、漸く二、三間位であった。

その他の小路は、軒と軒との間にはさまれていて、狭く入混んだ路地になってた。

それは迷路のように曲折しながら、石畳のある坂を下に降りたり、二階の張り出した出窓の影で、暗く隧道になった路をくぐったりした。

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