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猫町(11/16) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(695字。目安の読了時間:2分)

それは迷路のように曲折しながら、石畳のある坂を下に降りたり、二階の張り出した出窓の影で、暗く隧道になった路をくぐったりした。

南国の町のように、所々に茂った花樹が生え、その附近には井戸があった。

至るところに日影が深く、町全体が青樹の蔭のようにしっとりしていた。

娼家らしい家が並んで、中庭のある奥の方から、閑雅な音楽の音が聴えて来た。

 大通の街路の方には、硝子窓のある洋風の家が多かった。

理髪店の軒先には、紅白の丸い棒が突き出してあり、ペンキの看板に Barbershop と書いてあった。

旅館もあるし、洗濯屋もあった。

町の四辻に写真屋があり、その気象台のような硝子の家屋に、秋の日の青空が侘しげに映っていた。

時計屋の店先には、眼鏡をかけた主人が坐って、黙って熱心に仕事をしていた。

 街は人出で賑やかに雑鬧していた。

そのくせ少しも物音がなく、閑雅にひっそりと静まりかえって、深い眠りのような影を曳いてた。

それは歩行する人以外に、物音のする車馬の類が、一つも通行しないためであった。

だがそればかりでなく、群集そのものがまた静かであった。

男も女も、皆上品で慎み深く、典雅でおっとりとした様子をしていた。

特に女は美しく、淑やかな上にコケチッシュであった。

店で買物をしている人たちも、往来で立話をしている人たちも、皆が行儀よく、諧調のとれた低い静かな声で話をしていた。

それらの話や会話は、耳の聴覚で聞くよりは、何かの或る柔らかい触覚で、手触りに意味を探るというような趣きだった。

とりわけ女の人の声には、どこか皮膚の表面を撫でるような、甘美でうっとりとした魅力があった。

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