猫町(11/16) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(695字。目安の読了時間:2分)
それは迷路のように曲折しながら、石畳のある坂を下に降りたり、二階の張り出した出窓の影で、暗く隧道になった路をくぐったりした。
南国の町のように、所々に茂った花樹が生え、その附近には井戸があった。
至るところに日影が深く、町全体が青樹の蔭のようにしっとりしていた。
娼家らしい家が並んで、中庭のある奥の方から、閑雅な音楽の音が聴えて来た。
大通の街路の方には、硝子窓のある洋風の家が多かった。
理髪店の軒先には、紅白の丸い棒が突き出してあり、ペンキの看板に Barbershop と書いてあった。
旅館もあるし、洗濯屋もあった。
町の四辻に写真屋があり、その気象台のような硝子の家屋に、秋の日の青空が侘しげに映っていた。
時計屋の店先には、眼鏡をかけた主人が坐って、黙って熱心に仕事をしていた。
街は人出で賑やかに雑鬧していた。
そのくせ少しも物音がなく、閑雅にひっそりと静まりかえって、深い眠りのような影を曳いてた。
それは歩行する人以外に、物音のする車馬の類が、一つも通行しないためであった。
だがそればかりでなく、群集そのものがまた静かであった。
男も女も、皆上品で慎み深く、典雅でおっとりとした様子をしていた。
特に女は美しく、淑やかな上にコケチッシュであった。
店で買物をしている人たちも、往来で立話をしている人たちも、皆が行儀よく、諧調のとれた低い静かな声で話をしていた。
それらの話や会話は、耳の聴覚で聞くよりは、何かの或る柔らかい触覚で、手触りに意味を探るというような趣きだった。
とりわけ女の人の声には、どこか皮膚の表面を撫でるような、甘美でうっとりとした魅力があった。
=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう!
■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404
■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/641_21647.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
メール配信の停止はこちら:https://goo.gl/forms/kVz3fE9HdDq5iuA03
-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Mail: info@notsobad.jp