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猫町(12/16) - ブンゴウメール

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(719字。目安の読了時間:2分)

とりわけ女の人の声には、どこか皮膚の表面を撫でるような、甘美でうっとりとした魅力があった。

すべての物象と人物とが、影のように往来していた。

 私が始めて気付いたことは、こうした町全体のアトモスフィアが、非常に繊細な注意によって、人為的に構成されていることだった。

単に建物ばかりでなく、町の気分を構成するところの全神経が、或る重要な美学的意匠にのみ集中されていた。

空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的方則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。

しかもその美的方則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、異常に緊張して戦いていた。

例えばちょっとした調子はずれの高い言葉も、調和を破るために禁じられる。

道を歩く時にも、手を一つ動かす時にも、物を飲食する時にも、考えごとをする時にも、着物の柄を選ぶ時にも、常に町の空気と調和し、周囲との対比や均斉を失わないよう、デリケートな注意をせねばならない。

町全体が一つの薄い玻璃で構成されてる、危険な毀れやすい建物みたいであった、ちょっとしたバランスを失っても、家全体が崩壊して、硝子が粉々に砕けてしまう。

それの安定を保つためには、微妙な数理によって組み建てられた、支柱の一つ一つが必要であり、それの対比と均斉とで、辛うじて支えているのであった。

しかも恐ろしいことには、それがこの町の構造されてる、真の現実的な事実であった。

一つの不注意な失策も、彼らの崩壊と死滅を意味する。

町全体の神経は、そのことの危懼と恐怖で張りきっていた。

美学的に見えた町の意匠は、単なる趣味のための意匠でなく、もっと恐ろしい切実の問題を隠していたのだ。

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