僕の孤独癖について(5/8) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(702字。目安の読了時間:2分)
だがそれだけまた友が恋しく、稀れに懐かしい友人と逢つた時など、恋人のやうに嬉しく離れがたい。
「常に孤独で居る人間は、稀れに逢ふ友人との会合を、さながら宴会のやうに嬉しがる」とニイチェが言つてるのは真理である。
つまりよく考へて見れば、僕も決して交際嫌ひといふわけではない。
ただ多くの一般の人々は、僕の変人である性格を理解してくれないので、こちらで自分を仮装したり、警戒したり、絶えず神経を使つたりして、社交そのものが煩はしく、窮屈に感じられるからである。
僕は好んで洞窟に棲んでるのではない。
むしろ孤独を強ひられて居るのである。
かうした僕の性癖は、一つにはまた環境からも来て居るのである。
医者といふ職業上から、父は患者以外の来客を煩さがつて居た。
父の交際法は西洋式で、いつも倶楽部でばかり人に会つて居た。
そこで僕の家の家風全体が、一体に訪問客を悦ばなかつた。
特に僕の所へ来る客は厭がられた。
それはたいてい垢じみた着物をきて、頭を乱髪にした地方の文学青年だつた。
堂々と玄関を構へてる医者の家へ、ルンペンか主義者のやうな風態をした男が出入するのを、父が世間態を気にして厭がつたのは無理もなかつた。
そこで青年たちが来る毎に、僕は裏門をあけてそつと入れ、家人に気兼ねしながら話さねばならなかつた。
それは僕にとつて非常に辛く、客と両方への気兼ねのために、神経をひどく疲らせる仕事だつた。
僕は自然に友人を避け、孤独で暮すことを楽しむやうに、環境から躾けられてしまつたのである。
かうした環境に育つた僕は、家で来客と話すよりも、こつちから先方へ訪ねて行き、出先で話すことを気楽にして居る。
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