僕の孤独癖について(8/8) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(626字。目安の読了時間:2分)
ニイチェは読書を「休息」だと言つたが、今の僕にとつて、交際はたしかに一つの「休息」である。
人と話をして居る間だけは、何も考へずに愉快で居られるからである。
煙草や酒と同じく、交際もまた一つの「習慣」であると思ふ。
その習慣がつかない中は、忌はしく煩はしいものであるが、一旦既に習慣がついた以上は、それなしに生活ができないほど、日常的必要なものになつてしまふ。
この頃では僕にも少しその習慣がついたらしく、稀れに人と逢はない日を、寂しく思ふやうにさへなつて来た。
煙草が必要でないやうに、交際もまた人生の必要事ではない。
だが多くの人々にとつて、煙草が習慣的必要品であるやうに、交際もまた習慣的な必要事なのである。
「孤独は天才の特権だ」といつたショーペンハウエルでさへ、夜は淫売婦などを相手にしてしやべつて居たのだ。
真の孤独生活といふことは、到底人間には出来ないことだ。
友人が無ければ、人は犬や鳥とさへ話をするのだ。
畢竟人が孤独で居るのは、周囲に自分の理解者が無いからである。
天才が孤独で居るのは、その人の生きてる時代に、自己の理解者がないためである。
即ちそれは天才の「特権」でなくて「悲劇」である。
とにかく僕は、最近漸くにして自己の孤独癖を治療し得た。
そして心理的にも生理的にも、次第に常識人の健康を恢復して来た。
ミネルバの梟は、もはやその暗い洞窟から出て、白昼を飛ぶことが出来るだらう。
僕はその希望を夢に見て楽しんでゐる。
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というわけで、6月は萩原朔太郎の短編3作品をお送りしました!
代表作である詩集『月に吠える』は取り上げられなかったので、作品が気に入った方はぜひこちらも読んでみてください。
▼萩原朔太郎 (ちくま日本文学 36)
『月に吠える』などの詩作に加え、今月配信した『猫町』なども収録されているコンパクトな選集です。
それでは、明日からはまた新しい作品を配信します。お楽しみにー!
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