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老妓抄(2/30) - ブンゴウメール

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(602字。目安の読了時間:2分)

 だが、彼女は職業の場所に出て、好敵手が見つかると、はじめはちょっと呆けたような表情をしたあとから、いくらでも快活に喋舌り出す。

 新喜楽のまえの女将の生きていた時分に、この女将と彼女と、もう一人新橋のひさごあたりが一つ席に落合って、雑談でも始めると、この社会人の耳には典型的と思われる、機知と飛躍に富んだ会話が展開された。

相当な年配の芸妓たちまで「話し振りを習おう」といって、客を捨てて老女たちの周囲に集った。

 彼女一人のときでも、気に入った若い同業の女のためには、経験談をよく話した。

 何も知らない雛妓時代に、座敷の客と先輩の間に交される露骨な話に笑い過ぎて畳の上に粗相をしてしまい、座が立てなくなって泣き出してしまったことから始めて、囲いもの時代に、情人と逃げ出して、旦那におふくろを人質にとられた話や、もはや抱妓の二人三人も置くような看板ぬしになってからも、内実の苦しみは、五円の現金を借りるために、横浜往復十二円の月末払いの俥に乗って行ったことや、彼女は相手の若い妓たちを笑いでへとへとに疲らせずには措かないまで、話の筋は同じでも、趣向は変えて、その迫り方は彼女に物の怪がつき、われ知らずに魅惑の爪を相手の女に突き立てて行くように見える。

若さを嫉妬して、老いが狡猾な方法で巧みに責め苛んでいるようにさえ見える。

 若い芸妓たちは、とうとう髪を振り乱して、両脇腹を押え喘いでいうのだった。

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