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老妓抄(7/30) - ブンゴウメール

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(532字。目安の読了時間:2分)

名前は柚木といった。

快活で事もなげな青年で、家の中を見廻しながら「芸者屋にしちゃあ、三味線がないなあ」などと云った。

度々来ているうち、その事もなげな様子と、それから人の気先を[#「気先を」は底本では「気先は」]撥ね返す颯爽とした若い気分が、いつの間にか老妓の手頃な言葉仇となった。

「柚木君の仕事はチャチだね。一週間と保った試しはないぜ」彼女はこんな言葉を使うようになった。

「そりゃそうさ、こんなつまらない仕事は。パッションが起らないからねえ」

「パッションって何だい」

「パッションかい。ははは、そうさなあ、君たちの社会の言葉でいうなら、うん、そうだ、いろ気が起らないということだ」

 ふと、老妓は自分の生涯に憐みの心が起った。

パッションとやらが起らずに、ほとんど生涯勤めて来た座敷の数々、相手の数々が思い泛べられた。

「ふむ。そうかい。じゃ、君、どういう仕事ならいろ気が起るんだい」

 青年は発明をして、専売特許を取って、金を儲けることだといった。

「なら、早くそれをやればいいじゃないか」

 柚木は老妓の顔を見上げたが

「やればいいじゃないかって、そう事が簡単に……(柚木はここで舌打をした)だから君たちは遊び女といわれるんだ」

「いやそうでないね。

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