老妓抄(25/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(546字。目安の読了時間:2分)
みち子はついに何ものかを柚木から読み取った。
普段「男は案外臆病なものだ」と養母の言った言葉がふと思い出された。
立派な一人前の男が、そんなことで臆病と戦っているのかと思うと、彼女は柚木が人のよい大きい家畜のように可愛ゆく思えて来た。
彼女はばらばらになった顔の道具をたちまちまとめて、愛嬌したたるような媚びの笑顔に造り直した。
「ばか、そんなにしないだって、ご馳走あげるわよ」
柚木の額の汗を掌でしゅっと払い捨ててやり
「こっちにあるから、いらっしゃいよ。さあね」
ふと鳴って通った庭樹の青嵐を振返ってから、柚木のがっしりした腕を把った。
さみだれが煙るように降る夕方、老妓は傘をさして、玄関横の柴折戸から庭へ入って来た。
渋い座敷着を着て、座敷へ上ってから、褄を下ろして坐った。
「お座敷の出がけだが、ちょっとあんたに云っとくことがあるので寄ったんだがね」
莨入れを出して、煙管で煙草盆代りの西洋皿を引寄せて
「この頃、うちのみち子がしょっちゅう来るようだが、なに、それについて、とやかく云うんじゃないがね」
若い者同志のことだから、もしやということも彼女は云った。
「そのもしやもだね」
本当に性が合って、心の底から惚れ合うというのなら、それは自分も大賛成なのである。
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