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老妓抄(30/30) - ブンゴウメール

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(593字。目安の読了時間:2分)

遠慮のない相手に向って放つその声には自分が世話をしている青年の手前勝手を詰る激しい鋭さが、発声口から聴話器を握っている自分の手に伝わるまでに響いたが、彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に醗酵して寂しさの微醺のようなものになって、精神を活溌にしていた。

電話器から離れると彼女は

「やっぱり若い者は元気があるね。そうなくちゃ」呟きながら眼がしらにちょっと袖口を当てた。

彼女は柚木が逃げる度に、柚木に尊敬の念を持って来た。

だがまた彼女は、柚木がもし帰って来なくなったらと想像すると、毎度のことながら取り返しのつかない気がするのである。

 真夏の頃、すでに某女に紹介して俳句を習っている筈の老妓からこの物語の作者に珍らしく、和歌の添削の詠草が届いた。

作者はそのとき偶然老妓が以前、和歌の指導の礼に作者に拵えてくれた中庭の池の噴水を眺める縁側で食後の涼を納れていたので、そこで取次ぎから詠草を受取って、池の水音を聴きながら、非常な好奇心をもって久しぶりの老妓の詠草を調べてみた。

その中に最近の老妓の心境が窺える一首があるので紹介する。

もっとも原作に多少の改削を加えたのは、師弟の作法というより、読む人への意味の疏通をより良くするために外ならない。

それは僅に修辞上の箇所にとどまって、内容は原作を傷けないことを保証する。

年々にわが悲しみは深くして

  いよよ華やぐいのちなりけり

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