武蔵野(9/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
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鳥の羽音、囀る声。
風のそよぐ、鳴る、うそぶく、叫ぶ声。
叢の蔭、林の奥にすだく虫の音。
空車荷車の林を廻り、坂を下り、野路を横ぎる響。
蹄で落葉を蹶散らす音、これは騎兵演習の斥候か、さなくば夫婦連れで遠乗りに出かけた外国人である。
何事をか声高に話しながらゆく村の者のだみ声、それもいつしか、遠ざかりゆく。
独り淋しそうに道をいそぐ女の足音。
遠く響く砲声。
隣の林でだしぬけに起こる銃音。
自分が一度犬をつれ、近処の林を訪い、切株に腰をかけて書を読んでいると、突然林の奥で物の落ちたような音がした。
足もとに臥ていた犬が耳を立ててきっとそのほうを見つめた。
それぎりであった。
たぶん栗が落ちたのであろう、武蔵野には栗樹もずいぶん多いから。
もしそれ時雨の音に至ってはこれほど幽寂のものはない。
山家の時雨は我国でも和歌の題にまでなっているが、広い、広い、野末から野末へと林を越え、杜を越え、田を横ぎり、また林を越えて、しのびやかに通り過く時雨の音のいかにも幽かで、また鷹揚な趣きがあって、優しく懐しいのは、じつに武蔵野の時雨の特色であろう。
自分がかつて北海道の深林で時雨に逢ったことがある、これはまた人跡絶無の大森林であるからその趣はさらに深いが、その代り、武蔵野の時雨のさらに人なつかしく、私語くがごとき趣はない。
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