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武蔵野(27/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(583字。目安の読了時間:2分)

 小金井の流れのごとき、その一である。

この流れは東京近郊に及んでは千駄ヶ谷、代々木、角筈などの諸村の間を流れて新宿に入り四谷上水となる。

また井頭池善福池などより流れ出でて神田上水となるもの。

目黒辺を流れて品海に入るもの。

渋谷辺を流れて金杉に出ずるもの。

その他名も知れぬ細流小溝に至るまで、もしこれをよそで見るならば格別の妙もなけれど、これが今の武蔵野の平地高台の嫌いなく、林をくぐり、野を横切り、隠れつ現われつして、しかも曲りくねって(小金井は取除け)流るる趣は春夏秋冬に通じて吾らの心を惹くに足るものがある。

自分はもと山多き地方に生長したので、河といえばずいぶん大きな河でもその水は透明であるのを見慣れたせいか、初めは武蔵野の流れ、多摩川を除いては、ことごとく濁っているのではなはだ不快な感を惹いたものであるが、だんだん慣れてみると、やはりこのすこし濁った流れが平原の景色に適ってみえるように思われてきた。

 自分が一度、今より四五年前の夏の夜の事であった、かの友と相携えて近郊を散歩したことを憶えている。

神田上水の上流の橋の一つを、夜の八時ごろ通りかかった。

この夜は月冴えて風清く、野も林も白紗につつまれしようにて、何ともいいがたき良夜であった。

かの橋の上には村のもの四五人集まっていて、欄に倚って何事をか語り何事をか笑い、何事をか歌っていた。

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