外科室(16/29)
(322字。目安の読了時間:1分)
単に、医師の命をだに奉ずればよし、あえて他の感情を顧みることを要せざるなり。
「綾! 来ておくれ。あれ!」
と夫人は絶え入る呼吸にて、腰元を呼びたまえば、慌てて看護婦を遮りて、
「まあ、ちょっと待ってください。夫人、どうぞ、御堪忍あそばして」と優しき腰元はおろおろ声。
夫人の面は蒼然として、
「どうしても肯きませんか。それじゃ全快っても死んでしまいます。いいからこのままで手術をなさいと申すのに」
と真白く細き手を動かし、かろうじて衣紋を少し寛げつつ、玉のごとき胸部を顕わし、
「さ、殺されても痛かあない。ちっとも動きやしないから、だいじょうぶだよ。切ってもいい」
決然として言い放てる、辞色ともに動かすべからず。
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夫人の面は蒼然として、
「どうしても肯きませんか。それじゃ全快っても死んでしまいます。いいからこのままで手術をなさいと申すのに」
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